第11狐 「ハグ」 その1
「ねえねえ、航太君も皆と一緒に私のステージ見に来てね♥ キュッ♥」
「えっ? ああ、うん。クラスの皆も行くの?」
「みんなで来てくれるよね♥ キュッ♥」
チェックのスカートにフリフリのリボンが付いたブレザー。クリクリと目が大きく可愛い女の子が航太殿に話しかけています。
航太殿をキュートに誘う姿を、美狐様が不安気な表情で眺められていました。
「咲よ、あの娘は誰じゃ?」
「あれは桃子ちゃんですね」
「桃子? 変化族か?」
「ええ、獺族のご息女です」
「ほう。じゃがひとりだけ制服が違わぬか?」
「普段アイドル活動をしているとかで、そのアイドルグループの衣装だそうです」
「なんと……。この高校は何でも有りなのか?」
「私共が言えた義理ではないかと」
「ま、まあそうじゃな」
獺族の桃子ちゃんは、最近ご当地アイドルとして活躍しているそうなのです。
かなり人気があるらしくて、同級生の男の子達のファンも多いとか。
今日は近所のショッピングモールでイベントがあるらしく、クラスの多くの者達がステージを見に行くそうなのです。
お誘いが終ったのか、桃子ちゃんが傍を離れると、航太殿は私達の所にやって来られました。
「ねえ、あの子のイベント、ミコちゃん達も行くの?」
「お、おう。こ、航太君が行くなら、妾も行こうかのう」
航太殿は未だに男子の友達が少なく、最近は私達と一緒に行動する事が多くなっています。
というのも、実はクラスの女子は全員、そして男子の殆どが変化族になっているからなのです。
今年の一年生はいつの間にか二クラス分も人数が増えてしまい、私達が妖術で調整しているうちに、その様になってしまったのございまいした。
いずれ人族の男子は航太殿おひとりになるやも知れません。
航太殿には申し訳ないのですが、美狐様とお二人をお守りするには、その方が助かるのです。
そのお陰で航太殿と一緒に過ごす時間が多くなり、美狐様はご満悦の日々を過ごされております。
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「会場のみんなー! 今日は見に来てくれてありがとう! これからも私達の事を応援して下さーい♥」
「ありがとー♥」
「さあ、みんな! 最後にこのコーナーでお別れよ! 今日のハ・グ・はーーー!」
「「「君だーーー!」」」
桃子ちゃん達の華やかなステージが終わり、男子お待ちかねの『今日のハグは君だ!』のコーナーが始まりました。
グループの女の子が指名した人を、別の女の子がハグをしに行くと言う、大人気のサービスコーナーだそうです。
コーナーが始まるや否や、美狐様は航太殿の腕を引いて話しかけられておりました。
「こ、航太君も、あの娘達とハグがしたいのかのう?」
「え? そ、そんなことは無いよ……嫌じゃないけど」
「な、何と。こ、航太どの……君は、女の子とハグをするのが好きなのじゃな?」
「うーん、嫌いな男の子は居ないと思うけど」
「そうか! ならば妾がハグをして進ぜよう!」
「え? ええっ!」
一緒にいた私達は、美狐様の大胆発言に顔を見合わせてしまいました。
美狐様は航太殿の腕を引かれ、人の輪の外に連れ出そうとしておられます。
どうやら、航太殿が桃子ちゃん達にハグをされる事を警戒しているご様子。
私達はどうして良いのか分からず、立ち去ろうとする二人に付いて行く事に。
その時でした。
「次のハグは、いま後ろを向いた君だー!」
桃子ちゃんの横に居た娘が指さしたのは、何と航太殿でした。
しかもハグの順番は桃子ちゃん。楽しそうにステージを降り、両手を開きながら航太殿に駆け寄って来ています。
美狐様にとって最悪の事態が起こりそうでございました……。
今宵のお話しは、ひとまずここまでに致しとうございます。
今日も見目麗しき、おひい様でございました。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
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磨糠 羽丹王




