第10狐 「大祭」 その2
「こ、これは大天狗殿! わざわざお越し頂いたのでございまするか」
「かかか。赤子の時より知っておる、そなたの記念の大祭じゃ。参るに決まっておろう」
「恐縮に御座いまする」
美狐様が深々と頭を下げられたお相手は、神通力と云われるお力でこの世で最もお強いとされている大天狗様。
滅多な事では姿をお見せになる事はなく、他に知れれば変化界でも大ニュースになる程の出来事でございます。
「良き神社に仕上がっておるのう」
「有難きお言葉に御座いまする」
「美狐よ。左様に堅苦しくせぬとも良い。お主の事は我が子の如く可愛く思っておるぞ」
「大天狗様……かように嬉しいお言葉を頂戴するとは」
「かかか。美狐も大人になったのう。先程見つめておった者は誰じゃ?」
「な、何と……お恥ずかしゅうございます」
「風の噂で、お主が人族の高校に行き始めたと聞いたが、まさかあの男のこが原因か?」
「……」
「かかか。赤くなりおって。美狐も年頃じゃのう」
「……木興爺からは人族になど懸想してと、いつも咎められておりまする」
「かかか。木興は忠義者ゆえ仕方があるまい。ふむふむ、あの男のこの事か……」
大天狗様は、千里眼と言われるお力で航太殿を見つけられて、何やらお調べになられているご様子。
「かかか。あれが人族とな。美狐は面白いのう」
「大天狗様、何かございましたでしょうか?」
「かかか。何でもないわ。これは祝いの品じゃ……ぬん!」
大天狗様が印を結ばれ秘術を唱えられました。
只でさえ逞しい体躯が、術の圧力で更に大きくなられた様に見えました。
何とも凄まじいお力で御座います。
「我が天狗像を神社の四方の守りに設置した。これだけで魑魅魍魎の類は近づく事さえできまい」
「何と。これは有難き贈り物を」
「それと、我が眷族の者を置いていこう。働き者ゆえ神社の役に立つであろう」
「大天狗様、過分な祝いにございまする」
「少なすぎる程じゃわい! では、またそのうち遊びに来るゆえ、達者でな! かかか……」
美狐様が頭を下げられると、一陣の風と共に大天狗様のお姿は消えてしまいました。
そしてその場に、二人の男性神職と、お綺麗な女性が座っておいででした。
「美狐様、お久しゅうございまする」
「おお! 紅さんではないですか、如何なされた」
「大族長より美狐様のお手伝いをせよと申し付かっております」
「おお! 大天狗様が仰せの眷族とは、紅さん達の事でございましたか。これは助かりまする」
「はい。私も明日より高校に行きますので」
「な、なんと……」
紅様とは大天狗様の眷族で、紅烏天狗様でございます。
美狐様とは幼き頃から交友のある間柄。神通力もさることながら、空を舞い、忍ぶ能力に長けた方でございます。
その紅様が高校に行かれると聞き、美狐様が動揺されているご様子。
それもそのはず、紅様は隠れている部分が少なすぎる程の御衣裳なのです。
「べ、紅さん。高校へは、その格好では行けませぬぞ」
「ええ、存じております。えい!」
術の掛け声と共に、紅様が制服姿に変化されました。
ところが、シャツのボタンは胸元まで全開で、豊かな胸の谷間が露出し、短いスカートからは下着が覗いていました。何とも艶やかなお姿でございます。
「なっ……。べ、紅さん、そ、その格好はダメじゃ!」
「大天狗様から頂いた衣装ゆえ、これしか着れませぬ」
「されど……」
「では、私共は神社のお手伝いを致しますので、これにて」
紅様は巫女のお姿に、他のお二人は神職の姿に変化され、境内の方へと出ていかれました。
見送られた美狐様は、唖然としておいででした。
「のう、咲よ。大天狗様は何をお考えじゃ?」
「わたくし如きには分かりかねまする」
「学校は妾の敵ばかりじゃ……」
「遠呂智族の事でございますか?」
「違うのじゃ。クラスの女は『綺麗』『可愛い』『色っぽい』のどれかしか居らぬではないか! 航太殿と妾の恋路の敵しか居らぬ。全て木興爺の手回しか!」
「美狐様……」
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大祭は滞りなく終わり、夜に神楽殿にて宴が催されました。
紅様がそれはそれは艶やかな衣装で舞を披露され、宴は大盛り上がりでございます。
仏頂面で舞をご覧になられていた美狐様は、頃合いを見て白狐のお姿になられ、航太殿の家へと向かわれました。
何とも寂し気な後ろ姿でございます……。
今宵のお話しはここまでに致しとうございます。
今日も見目麗しき、おひい様でございました。
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