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それはきっと幻じゃない

作者: 衣谷強
掲載日:2021/01/19

家紋 武範様主催『夢幻企画』投稿作品です。


今回はちゃんと幻をテーマに使いました! えっへん!


ギャグも恋愛要素もない、シリアスな作品ですが、よろしければご一読ください。

「先生、こちらです」

「うむ」


 運転手が扉を開け、高級車から降りた男は、一軒の家のインターホンに手を伸ばした。


芥井あくたいかがみ!」


 芥井が声に振り向くと、刃物を構え、目を血走らせた少女が殺気を迸らせていた。


「お父さんの仇! 覚悟しろ!」

「……あれです、麻穂あさほさん」


 刃物を構えて突進してくる少女に、芥井は動じた様子もなく、隣に立つ青年に告げる。


「はーい」


 麻穂と呼ばれた青年は芥井の前に出ると、少女の手首を払い、足をかける。


「あうっ!」


 突進の勢いのまま、地面に転がる少女。麻穂はその背中に乗り、動きを封じる。


「どーも初めましてー。江都野えどの真智子まちこちゃん? 可愛いねー。女子校生? 僕、麻穂あさほ路資みちすけ、よろしくー」


 ナンパのような軽いノリで喋る麻穂。真智子の抵抗が一層強まる。


「離せ……! あいつを、あいつを殺すんだ……!」

「それは困っちゃうんだよねー。依頼だしー」


 もがく真智子の前に、芥井は膝をかがめた。


「お父さんの事は残念だった。横領という罪を犯したとはいえ、何も死ぬ事はなかったのにな」

「ふざけんな! あんたが秘書だったお父さんに全部なすりつけたんだろ!」


 吐きかけられた唾をかわし、やれやれと溜息を吐いて立ち上がる芥井。


「……子どもというのは、思い込みだけでここまでの事をする。可哀想な事だ」

「絶対許さない! 殺してやる……!」 


『そんな事は言わないでくれ、真智子……』


 驚く真智子の目の前に、痩せた男の顔が浮かび上がる。


「お、お父さん!?」

『真智子、お前が父さんの仇をと思ってくれる気持ちは嬉しい。だがそれでお前が捕まっては母さんはどうなる。一人ぼっちだ』

「でも、でも……!」

『幸せになってくれ。母さんと一緒に。それが父さんの最後の望みだ……』


 そう言うと、父の顔は風に吹かれた煙のように消えていった。


「お父さん! お父さーん!」


 真智子の絶叫が、夜空に吸い込まれていった。




「いやー、説得屋とは凄いものですな!」

「どーもー」


 車の中で、芥井は上機嫌だった。秘書が自殺し、一番の懸案だった遺族である妻と娘との和解が成立したからだ。


「ミストとプロジェクションマッピングの組み合わせは凄いですね! 一度見せては頂きましたが、改めて夜に外で見ると、本当に江都野の幽霊のようでした!」

「まー、機材を服の下に仕込んで手から出すのでー、小さく顔を映すだけですしー、稼働時間も短いですけどねー」


 麻穂はへらへらと笑いながら、手首に仕込んだミスト発生装置と小型プロジェクターを見せる。


「しかし効果は絶大でした。あんなに殺気立っていた娘が大人しくなって、見舞金もスムーズに渡せましたよ!」

「亡くなった方の言葉は効きますからねー。たとえそれが霧で出来た幻でもー」

「幻だなんてとんでもない! 麻穂さんの演技力は素晴らしかった! 声まで江都野そっくりでしたよ!」

「顔と体格を見ればー、声質とかは大体分かりますからねー」

「流石プロは違う!」


 車が駅前で止まる。


「では芥井議員ー」こちらで失礼しますー」

「あぁ。またお願いしますよ」


 後部座席に一人になって、芥井は天井を見上げた。


(これで不正献金の証拠は消えた。すまんな江都野、自殺までする事はなかったが、ま、感謝するよ)


 ふと芥井からにやけた笑みが消える。


(それにしてもあの説得屋、喋りの癖まで似ていたな……。声質はともかく、喋りの癖なんて聞かないと分からないはずだが……?)


 芥井は一人首を捻った。




「……いやいやー、こっちもお陰で儲かったしー? 真智子ちゃんも無事で良かったねー。

 ……良いって良いってー。それよりそっちは手伝わなくても良いのー?

 ……ま、そうだよねー。自分でやらないとすっきりしないもんねー。

 じゃ、頑張ってー」

読了ありがとうございました。


さて、タグにつけたダブルミーニングの意味に気づいた方はいるのでしょうか? 感想で指摘された方だけに答えをお教えしましょう(ふふふ、これで感想がいっぱい来るに違いない)。


まだまだ企画投稿は続けて参りますので、よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 悪者が良い目を見るのか?と割りきれない思いを抱えたところからの~ ラスト数行で( ´∀` )bとなりましたw 三羽様の感想を読んで、なるほど『説得屋』もあちらとこちらの両方をかけてあったのか…
[良い点] 幻かと思いきや、実は本人だった。「説得屋」というのも生きている人間を説得するだけではなくて、死んだ人間に無念を晴らすように持ちかける側面も持っていた。ダブルミーニング、こういった感じでしょ…
[良い点] 最後まで読んで、ダブルミーニングが仕込んであると言われて読み直して、こういうことかな?と思った瞬間、物凄くゾゾゾゾゾッと寒気が走りました。 最後の麻穂の独り言で霊能者だというのは分かった…
感想一覧
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