ある魔法使いと助手の異世界蹂躙記
好評ならまた別のお話も短編として投稿していきます。
昔々、大昔。この世界には二つの国がありました。
正統エルシュテム王国、ロード帝国。
世界唯一の大陸を、真ん中から真っ二つにするように走る聖なる川。
名前はないその大河を境に、東はロード帝国、西は正統エルシュテム王国が支配し、常に国境線の大河にかけられた大橋で戦争をしていました。
何百、何千年と争い続ける二つの国。しかし、この世界の住人はそれを当たり前のこととして受け入れ、誰も疑問には思うことはありませんでした。和平のわの字もないようなこの混沌の世界に、ある日どこからともなく二人の神様がやってきました。
神様は、「シショー」と「ジョシュクン」と自らを名乗り、この世界に知恵をもたらしました。知恵は正統エルシュテム王国、ロード帝国の二つの国あまねく全ての人々に平等に与えられ、新しく「魔法」という超自然現象を起こす技術を会得し、戦争は更に激化しました。
それを見て、二人の神様は思わずため息をつかずにはいられませんでした。
「シショー、これ何かヤバくないですか? この世界滅んじゃいますよ。せっかく争わずに済むように魔法を教えたのに」
「ジョシュクン、ここは一つ、この世界の人に痛い目にあってもらうしかないみたいだね」
「シショー、悪い顔してます」
「僕は悪人だからね」
そして、二人はしめしあわせて、シショーは正統エルシュテム王国に、ジョシュクンはロード帝国にそれぞれ降り立ち、戦争を扇動するようになったのです。二つの国が疲弊し、もうまともな戦力ものこっていないような状態になった時、シショーとジョシュクンはそれぞれの国に最終魔法兵器を与えます。
「この生物、魔獣は隣国まで走り抜け、爆発します。その威力は相手の領土を全て消し飛ばしてしまうほどです。くれぐれも取り扱いにはご注意を」
「いいですかー? 決して、相手に出し抜かれてはなりませんよ? シショーも同じモノを使ってくるはずです。もし相手の兵器がこちらに先に到達したら……わかりますね?」
その言葉にあおられ、大型魔獣殲滅兵器を与えられた両国は、これ以上戦争を長引かせるくらいならと、ほぼ同じタイミングで魔獣を走らせました。
魔獣とそれに随伴する戦闘馬車は、まっすぐに相手国との国境、聖なる大河の大橋を走り抜けようとしました。しかし、双方が相手を目視し、同じ魔獣を走らせているのを見て、奇しくもその考えは一致してしまいました。
相手に渡らせるくらいなら、今ここでぶつけてやる、と。
大型魔獣殲滅兵器は、聖なる大河の大橋でまるで引かれ合うようにぶつかり、大爆発を起こしました。その影響は凄まじく、空は荒れ狂い、川は干上がり、聖なる大河を中心に大陸の表層80%ほどが全て消し飛んでしまいました。
「ジョシュクン、ジョシュクン。ちょっとこれは想定外だね」
「いやいやいや、シショーがやれって言ったんでしょ。ここまでエゲツないことするとは思いませんでしたよ」
「いや、まさか対消滅するとは思わなかった。予め地盤に防護魔法かけておいて良かったよ」
「私、結構ギリギリなタイミングだったんですけど。聞いてなかったんですけど。危うく死ぬところだったんですけど」
「ジョシュクン、そんなに恨みがましい目で見ないでおくれ」
「チューしてくれたら許します」
「ははは、君は面白い冗談を言うなあ」
「シショーのいけず!」
空中で二人がそんな胸焼けしそうな会話をしている眼下では、未だに大混乱に陥っている大陸の姿がありました。
それから数百年。魔獣の爆発の影響で、聖なる大河はその形がすっかり変わり、大陸はほぼ三つへと分割されたようになりました。
正統エルシュテム王国、その次に「魔の領域」、そしてロード帝国。
魔の領域は余りにも強すぎる魔法攻撃の汚染によって、新たに「魔物」と呼ばれる凶悪なケダモノが産まれる不可侵領域となり、人々は争うどころではなくなり、日々魔物に怯えながら、必死にその対抗策を練る毎日を過ごすことになりました。
そして皮肉なことに、魔物には魔法が効果絶大である、と知った人々は、魔法の研鑽に励んでいくこととなりました。
「結果オーライかな」
「シショー、もう次の世界行っちゃいます?」
「うーん、面白そうだから、もうちょっとこの世界がどうなるか見てみようよ」
「シショー、悪い顔してますよ」
「僕は悪人だからね」