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第九話 休息日の『悪鬼』と【黒薔薇】

「おっさん、これ一つ」

「あいよ」


屋台の中年の男に銅貨を渡して串焼きを買い隣の席で食べる。


今日は休息日のため、俺は学園から最寄りの『クロスローズ』の街に繰り出していた。


クロスローズは、ペンドラゴン王国の中でもきっての商業都市であり学園都市であり城塞都市。街道が重なるため多くの物が流通し大地の魔力によって農業も盛ん、その地脈の魔力で魔法を研究に使う研究所が多く立っている。街を囲うように大きな塀も立っており外から見れば重圧を感じる。


街の風景も多くの庭先で色とりどりの薔薇が咲き誇り街並みは絵画のような美しさを誇っている。そのため、観光客も多く屋台も多く出店している。


この薔薇はこの街が生まれる前の小さな村を救ってくれた五大貴族が全員薔薇の名を冠した特殊な魔法を使っていたためである。


学園はこの街より北にある森の中にある。歩いて十分、馬車で五分で着けるため休息日には生徒が出歩いている。


(景色は良いところだが、これを落とせなくて助かった)


実を言うと、この街に俺は攻めた事がある。


この街は帝国に支配された国隣にあり、その街はその中でもその国との国境付近にあるからだ。


堅牢な守りに加え防衛戦と言うこともあって兵士たちの士気も高く何とまあ……殺りにくかった。


城壁の一方向を破壊することしか出来なかった。


「さて……と」


串焼きを食べ終え串を捨てると街の中を散策する。


今は制服ではなく少し仕立ての良いが平民の服装をしている。無論、腰に刀を携えてはいるが。使うことは無いとは思っている。


何せ、この街で刀を振るえば兵士たちがすぐに来るだろうし森の外だから魔物も現れる事も少ない。チンピラ程度に刀を向ける理由もない。


「これで良し……と」


適当な鍛治屋に入り研磨剤と言った整備道具やナイフと言った小物を買う。


品質はそこそこ良いし、暇潰しとは言え買えれたな。……そろそろ仕事を初めても良いか。


―――『十眼術式』


「……見えた」


左目に魔法陣が浮かび上がると設置した魔法陣を把握する。目標である少女を見つけると少しだけ笑みを浮かべ、歩きだす。


十眼術式は俺が設置した魔法陣を見ることが出来る魔法。距離も関係なく魔力消費も微々たるもの、脳の頭痛も片眼だけだからそこまで負担にならない。


まあ、一度に十個までしか見えないが俺が設置したのは一つだけだから問題ない。


(……見つけた)


人混みに紛れながら歩いていると女子向けの雑貨屋から嬉しそうに幾つもの商品を買ったクリアが出てくる。


何時も見ている制服姿とは違い私服は別の方向の可愛さがあって見ていて飽きない。……と、近づき過ぎてバレるのはいけないし周りから見られても問題ないようにポーカーフェイスの無表情を決めないと。


(……次はこの店か)


次の店に入ったクリアを見て後を追うようにその店の中に入る。


ふむ……?女性物の下着ショップか。まあ、俺は周りから見ると男か女か分からないと良く言われるから入っても大きな騒ぎになっては無さそうだ。


それに、俺はこれでも女装の経験がある。……単純に攻めいる前に最低限の情報を調べるのだが、女性の方が楽だからと言うことであって俺の性癖ではない。


(ふむ……)


店員たちの視線に入らないようにクリアを探していると下着を女性店員に進められていた。


下着を買いに来た……のか?まあ、そこら辺は気にする事はないだろう。


(……俺としては気にする事は無いだろう)


クリアが何時、どんな下着を着ようと俺には関係ない。それは個人の自由だからだ。だが、不自然なほどに気になってしまう。これはいったいもう言うことだ?


(……と、さっさと出るか)


クリアが外に出たのを見て少し慌てながら後を追うように出てその後をつける。


落ち着け……一時の感情に惑わされて警護を失敗させるのはダメだ。それだけは俺の宣言と違反する。



「いっぱい買えた」

(疲れた……)


テラス席の反対で嬉しそうにジュースを飲むクリアと対照的に俺は店内でコーヒーを飲んで疲れを癒す。


全く……ほぼずっと歩いたり雑貨を買ったり色々な買い出しをしていたな……。警護をしている以上、これは仕方のない事か……。


これなら接触してしまった方が楽なのでは……まあ、そんな事をすれば俺の正体がバレるだろうからダメか。


(……うん?)


店内に入ってきた五人組の男に目を向けると違和感を感じ携えた刀に右手を置く。


歩き方、目線、立ち振舞い、体の動き……間違いなく素人ではない。そしてあの雰囲気……俺らに対して害意のある存在か。


(ついでに、外には馬車まであるのか……)


馬車に二人、店内に五人、内訳だと馬車の二人は運搬。五人は実行と言ったところか。


見た感じ、武器はロングソードやナイフだが一名魔力のオーラが濃いヤツがいる。恐らくそいつは魔法師だな。


実力はそんなに無いだろうが……仕方ないか。いざとなれば殺すことも些かの問題も無い。


「お、お会計、お願いします」


って、バカ!何で態々会計の近くにいるあいつらに近づくんだクリア!


まずい……あいつら席を立ちやがった!事が動き出すぞ!!


―――『六歩足軽』


「全員動く―――げふっ!?」


席を降りた瞬間で一気に肉薄し命令をしようとした男の一人を蹴り飛ばし壁に打ち付ける。


ちっ……この感覚、鎖帷子を仕込んでいたか。蹴りだけでは気絶させるに不十分か……!


「あ、アリエスくん!?何でここに!?」

「こいつ――――!」


驚くクリアを背に男の一人が振り下ろした剣を鞘に入ったままの刀で防ぐ。


「説明は後!それよりも早く逃げろ!」

「う、うん!」

「目標を捕らえろ!最悪殺しても構わない!」

「―――あ?」


他の客に紛れて出入口に向かうクリアに指を差して怒鳴る壁に打ち付けた男の言葉に眉を動かし笑顔になる。


今―――何て言った。今、クリアを殺しても構わないと言ったか?


ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!!


クリアは俺が守ると決めた。そして、クリアは―――俺の獲物(・・)でもあるんだよ!!それを奪うのは……とてつもなく、赦しがたい!


「手加減はしてやる……死ぬなよ?」


邪笑と共に刀から手を離し僅かに後退する。


「なっ―――!?」

「ふん!!」


驚きながら体勢を崩す男の顔面に力強い踏み込みと共に拳を放ち一撃でノックアウトさせる。


これでも周りに配慮しているんだからな。まったく……。


「シャアォラァ!」

「っと!」


背後からの剣による刺突を見ずに避けテーブルの上に跳躍し着地。そのままコーヒーカップを蹴り相手の視線を誘導する。


「こい―――」

「なん―――」

「つけ入る隙が大きいんだよ、お前らは」


そのままテーブルを蹴り接近。落ちてた刀を持ち近くにいたヤツを含め殴り倒す。


「【フレイム・ショット】!」

「【紅の抱擁】」


魔法師の男の炎を両腕から発生した翼のような炎が男ごと包み込み熱で気絶させる。


紅の抱擁は火属性の攻撃を際限無く取り込み熱量の上限を上昇させる。そのため、普通の状態の熱はそこまで高くなく、高々一つの魔法なら命に別状はない。


「う、動くな!!」

「ひ、ひぃ!」


リーダー格と思われる男が店員の一人の首もとにナイフを向けて吠える。店員の恐怖と懇願の表情に冷徹な瞳を向ける。


拘束が緩い。その状態なら素人でも抵抗する事は可能だし、抜け出す事は確率的には高い。それなのに何故しない。


……傷つくのを恐れているのか?それは愚かな行いだ。命を賭け体が傷つく事を許容しなければより良い結果を出すことは不可能なのに。


まあ、これは長年戦場に身を置いていたからの考えではあるのだがな。


「そ、その武器を遠くに捨てろ!」

「へいへい」


男に言われるまま呆れた表情で投げ捨てる。

やれやれ……下らないな、こんな茶番。やろうと思えばこの時点で殺すことは容易い。が、それでは店員に被害がでる。


「そのまま手をあげろ!」

「……ああ」


雰囲気が気づかない男は俺に手を上げさせる。


『命の価値なきもの。故に躊躇う事を知らず』


生憎と、俺は店員がどうなろうと知った事ではないからな。別に死んだところでどうとも思わない。


だからこそ、店員の命に危険な作戦を行える。


「甘いんだよ、お前は」


侮蔑が籠った口調から袖から出したナイフを手首の動きで投擲する。


当たらなくても良い。と言うか、当たらないように投げたから問題ない。


「なっ―――」

わざと外したナイフは壁に突き刺さりその隙に男に肉薄。ナイフに手を突き刺しながら手を持ちそのまま腰を入れて投げ、床に背中から叩きつける。


「ガッ―――」


背中を強打した男はそのまま気絶し、確認し終えたらナイフを手から引っこ抜く。


まったく……実力はそこまで高くなかったな。こいつら、と言うよりもこいつらの上司は油断していたと言うことか。


「あ、アリエスくん……」

「クリアか」


手の傷を適当な布で塞いでいるとクリアがカフェの中に心配で今にも泣きそうな顔で入ってくる。


やれやれ……魔力の制御はできてもその精神はまだまだ甘い。俺のような狂人とまではいかないがもう少し何かを軸にして精神を安定させた方が良いと思うぞ。


「そ、その……傷を癒します……」

「ありがとう。だが、ここでは辞めておこう。少しここから離れるぞ」

「え……?」


クリアの柔らかい手を痛がらない程度に力強く握るとカフェの裏口から外に出て走り出す。


そう言えば、手を握ってからずっとクリアの顔が火を吹いているように真っ赤だが……熱でもあるのだろうか。


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