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第六話 【赤薔薇】との決闘

「…………」

「…………」


俺とローズ、どちらも目をつぶり微動だにしないで剣を一度も合わせる事はない。だが、場の空気は軋むような幻聴がする程の圧に呑まれている。事実、始まってから十数秒、誰一人として会話をしていない。


俺の居合は肉薄して行う事も出来るが本質的には自分の刀の領域、そこに入ったものを確実に両断すると言う守りに近い。そのため、ローズは得意の接近戦に踏み込めない。


ローズは自分の周りの砂を赤熱化させ別の温度が入れば即迎撃できるようになっている。そこに踏み込めば俺も只ではすまされないだろう。


―――だが、それがどうかしたのか。俺は動くぞ。そんなの、何度も潜り抜けてきた!!


「…………」


―――『六歩足軽』―――『一迅独歩』


「ッ―――!」


―――『一菊紋』


剣を抜き無音・無拍子の一歩目で無色の魔力を足場に一瞬で最高速に到達し知覚するより速く肉薄。その勢いを全て乗せ刀を突き出す。ローズは驚きながらもギリギリ右の剣の柄で防ぎ後方に吹き飛ばされる。


まさか、あれを防ぐとはな。刀等の剣の技でできる刺突技で一番の威力があるのだが……。ああ、触れる直前後ろに跳んだのか。それで威力を軽減したか。


「くっ―――【赤薔薇】!!」


何度もバウンドしながら左の剣を地面に突き刺して勢いを止め、すぐに左の剣から赤い薔薇を発生させ茨をこっちに伸ばす。


「速いな」


刀を振るい茨を切っていくがすぐに補填される。

膨大な魔力があるからなせる技か。それなら


―――『十六面鏡』―――『六歩足軽』


「なっ―――!?」


すべての茨を同時に切り落として無音・無拍子の高速の歩法で肉薄する。


相手は剣術より魔法の方が得意としている。当たり前だ。何せ、スカーレット家と言えば、五大貴族の一つなのだから。あの連中は大体魔法を得意としていたからな。


「くっ―――!」


右の剣で防ぎ左の剣で攻撃。俺は回避しつつ攻め続ける。剣戟により火花が散りまるでダンスのような回転しながらの互いに位置取りをする。


やはり、二刀一元流か。確か、手数が一番多い剣術だったな。成る程、これでは手数で勝つことはできないな。逆に、これ以上時間をかければこっちが負ける。


「っと―――」

「はあっ!」


俺が後ろに後退したところで力強い足踏みと共に炎を纏った右の剣が振り下ろされる。足で手を蹴りギリギリのところで弾くが今度は左の剣で攻撃してくる。


「はあァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「……厄介」


二振りの剣のよる終わりのない連撃を刀と足を使い防ぎ、避け、弾く。が、圧倒される。


成る程、一度押し込められるとそのまま強引に強行突破できる。それだけの力を保有していたか。そして、それを完全に扱えるだけの技量。見事としか言えない。


だが―――


「それだけで勝てるのなら―――俺は既に死んでるよ」

「――――!」


―――『二谷返』


相手の動きを見極め右の剣を切り上げで上に弾き返す刀で左の剣を地面に落とす。


元々、二谷返は対二刀流使い用に生み出した剣技。破れない道理はない。


「シイィィィィィィィィィィィヤッッ!!」

「ガッ―――!?」


そして地面についたところで刀から手を離し(・・・・)踏み込みと共にがら空きの腹を殴る。


「ゴホッ!?ゴホッ!?な、殴るは普通しな」

「生憎と、俺は特定の武器に拘らないタイプ何でね――――!」


―――『一手熊打(ひとてゆうだ)


「ごほっ!?」


驚きながら腹を押さえながら後退するローズに更に肉薄し魔力を纏った張り手を胸に打ち更に吹き飛ばす。


一手熊打。五指魔爪のように掌全体に魔力を纏い相手に張り手を入れる技。本気かつ本来の威力は凄まじく、熊を一撃で殺すほど。


今回は籠めた魔力をかなり少なくしてあるから本気の威力よりは九割近く落ちている。だが、胸骨を粉砕骨折させる程の威力はある。


「ごぼっ!ごぼっ!」

「まだ終わってないぞ」

「ッ――――――!」


胸骨の骨が肺に刺さり吐血した状態でも容赦はしない。右手に刀と左手にローズの剣を持ち同時に振り下ろすがギリギリのところで転がって避けられる。


ちっ……今ので決めようと思っていたが……まさか避けられるとはな。


「くっ―――」

「だが、これはどうだ」


―――『三十二反鏡』


「くっ―――【赤の花園(レッドガーデン)】!!」


両手の剣を振るのと同時にローズを赤い茨に囲われ三十二の斬撃を防がれる。


剣を振るのと同時に範囲防御ができる魔法を発動して防御する……か。それで十六面鏡の発展である三十二面鏡を防ぐとはな。


「だが、防御してくれる茨は切り落とされたぞ」

「それがどうかしたの?」


地面を蹴り肉薄して右の刀を振るり下ろすが左のフランベルジュ(・・・・・・・・・)に防がれる。ローズが突きだした右のフランベルジュ(・・・・・・・・・)を俺の右の剣の腹で受け止める。


「【赤の花園(レッドガーデン)】はね、ただの範囲防御の魔法じゃないの。―――武器の貯蔵庫でもあるのよ!」

「なっ―――!?」


両手に持ったフランベルジュによる連撃を右の刀と左の剣で防ぎながら魔眼で二振りのフランベルジュを計測する(みる)


魔力百パーセント。魔力のみで作られた剣か……!【赤の花園】は高密度な魔力の塊で形成される。そこの茨を一つ取れば剣となり、花を取れば柄となる、と言うことか……。だが、作れたとしてもその形を維持するのは難しい。それを意図も容易く行うとは……やはり、天才と言うのは厄介だ。こいつの父親の方がもっと相手にしやすかったぞ。


「ほらほら、どうしたの!!」

「ちっ―――」


少しずつ攻撃が当たり始め、俺は苦悶の表情を浮かべローズは嗜虐的な表情をする。


二刀流はローズの方が経験がある。俺はあまり使ってこなかったからな。だからこそ、押される。だが、左の剣を捨てれば防御も回避もままならない。それ程の速度での連撃である。


―――仕方ない。この技を使うか。


―――『一刀大振』

「なっ―――!?」


関節や筋肉の動きを無視しての左の剣の大振りの一閃でローズは弾き飛ばされる。


一刀大振。関節と筋肉をあり得ない力、あり得ない方法で動かして行動についていく捨て身技。そのため、反動で脱臼や筋肉の断裂は当たり前、場合によっては骨が折れたりすることもある。


今回は脱臼だけですんだな。良かった良かった。


「よいっしょ―――と」

「くっ―――かはっ!!」


肩を回し左肩の関節を元に戻しているとローズが地面に血を吐く。


回復魔法をさせる余裕はない。時間が長引けば長引く程、肺に刺さり出血し血を吐き呼吸がしずらくなる。


「くっ―――あああ!!」

「予想出来ていたよ」


故に取る方法は速攻の近接戦。魔法では俺を止める事が出来ないと思っているのだろう。まあ、事実だけど。


血を垂らしながら最後の突撃をするローズに対するために左の剣を捨て刀を鞘に納め抜刀の構えをとる。


これを出すほどの実力者だったとはな。貴族と言うのは末恐ろしいものだ。


―――『四光妖影(よんこうようえい)


「ガッ―――!?」


抜刀による左から右への斜め切り、返す刀で右から左への斜め切り、腕力で太刀筋を変え縦一文字、流れで横一文字をローズは領域に入った瞬間もろに食らい後ろに吹き飛される。


今ので気絶しないか……あれは少しだけだが本気の技だったんだが……予想以上に強い事を認めないといけない。


「カハッ……負けない……!負けてなるものか……!私は、栄えあるスカーレット家のローズなのだから……!」


口からは吐血しアスタリスク状の胸の傷から血を流しながらローズは右のフランベルジュを杖代わりにしながら立ち上がる。


致し方なし……か。威力の調整が上手に出来ないから好きではないんだよ、この方法は。


「いきなさい【血赤薔薇】!!」

「【青の祈り】」


流した血で出来た血溜まりから生み出された朱い茨を突き出した左手から生まれた青い大波が包み込み分解する。


俺は魔力の操作と無色の魔力の利用を得意としている訳だが普通の、既存の魔法を得意としている訳ではない。逆に魔法そのものが出来ないのだ(・・・・・・)


何故なら、既存の魔法を使おうとすれば魔法陣が暴走し暴発してしまうのだ。


これは、魔力の純度が高い人間ほど起きる。純度が高ければ高いほど魔法の威力は高くなるが、既存の魔法陣を食いつくしてしまい不具合が起きてしまう。その結果が不発や暴発と言った結果である。


そのため、純度が高い魔法師程不発や暴発、暴走が起きない自分に合ったオリジナルの魔法しか使えなくなる。


事実、純度が高く魔力の密度、量が濃く多いクリアやローズは【赤薔薇】や【黒薔薇】と言った家系の魔法しか使えない。無論、普通の魔法も使えるだろうが、細心の注意が必要となる。


(二人でも70パーセント程度だろうけどな)


俺は特殊な魔道具で調べた時に純度99パーセントと言う超超高純度の魔力である事が分かったのだ。この超超高純度の魔力では、既存の魔法は二人のように細心の注意を払っても一切使えない。使えば確実に暴発する。


それをどうにかしようとした結果が十六面鏡や八面切除と言った普通では出来ない規格外の空間魔法や一迅独歩や五指魔爪、一手熊打のような無色の魔力の利用である。


そして、これもその副産物。魔力の純度が高い魔法師が最初に行う『自分にあった魔法』である。


「ゴホッ―――!?」

「【氷の教会】」


荒れ狂う激流に流されたローズは地面から生まれた氷の奔流に呑み込まれ空色の氷の柱に封じ込められる。


【青の祈り】の水の一部を集約させローズの真下に【氷の教会】を作れるように魔法陣を作るのは少しコツが必要だな。魔力操作の技術をもっと高めておこう。


「こ、こっちまで食らうところだったぞ!?」

「悪い、少し戦いに意識を持ってかれてた」

「な―――!?」


誤って【青の祈り】に巻き込まれそうになった生徒たちに防御魔法の障壁を張った筋肉達磨に軽く謝罪し氷の柱に近づく。


てか、あの筋肉達磨、範囲系の防御魔法使えたのか。てっきり身体強化系だと思っていたが……どちらかと言うと無属性魔法を得意としているようだな。


「くっ―――何故、これだけの魔法を使えながらEクラスと言う最下層に留まっている」

「―――この学校の入学試験はどういう方法か覚えているか?」

「確か……筆記試験で知識、基礎魔法の魔法行使速度、実技試験で戦闘能力を調べた筈よ」

「そして、その中でどれか一つでもゼロ点だった場合―――Eクラスに落とさせるらしい。まあ、そうなる者は基本的に入学すら出来ないが」

「ええ。普通はあり得な―――まさか」

「そう、お前の予想通りだ」


氷の柱に拘束されながら聞こえない程度の大きさの声での俺の問いに答え、一つの答えを導いたローズに少しだけ笑顔となる。


「俺は筆記試験は満点。それ以外の二つ(・・・・・・・)がゼロ点だったのさ(・・・・・・・・・)。どっちも、俺の実力が高すぎてな」

「基礎魔法は基本の魔法行使の速度と精度を調べ、実技試験では剣術や魔法の使用法を調べる。どちらも貴方の実力ならあっさりと合格できる筈よ」

「基礎魔法は既存の魔法で行われる。だが、俺は生まれつき魔力の純度が高過ぎて既存の魔法が何一つと使えない」

「えっ―――?」

「実技試験は―――試験官を強者だと思い本気の技を放ってしまい、瀕死にしてしまった。その時間0.1秒。審査員には『最初から仕込んでいた』と思われてゼロ点扱い」


既存の魔法が使えなかったから暴発させ基礎魔法はゼロ点、戦闘能力が高過ぎて実技試験はゼロ点。それが原因でEクラスに落とされたのだ。


これだから学舎は嫌い何だよ。見合うだけの試験が存在してないのに、行く理由が一切ない。のんびりと森の中で生きていた方がまだ良かった


「何よそれ―――本来の実力が測れてないじゃない」

「俺と言う例外を測るメモリが無かった。それだけだ。さて……終わらせるぞ。【赤の噴火】」


俺の現在の立ち位置に不服そうにするローズを他所に氷の柱の真下から炎の柱を噴出させる。


「アァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


突然の炎にローズは絶叫し俺が左手を握るすぐに炎は収まり丸焦げとなったローズを回収する。

……つい、本気の魔法を放ってしまった。


「ハッ―――しょ、勝者、アリエス!」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」



「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」

「「「クソッタレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」」」



我に返った筋肉達磨が勝者の宣言をしEクラスが勝利に対する喜びを、Sクラスが敗北の屈辱を咆哮とする。


たく……これは俺とローズの戦いなのに周りが喜ぶ事でもあるのだろうか。……まあ、奴隷を剣奴として殺し合いを観衆の楽しみとしている国もあるし、これもその一つと認識されているのだろう。


ゴーンゴーン……


「っと、今日の授業はここまで!片付けをして撤収するぞ!」

「「「「「「はい!!」」」」」」


授業終了の鐘が鳴りEクラスとSクラスは直立して筋肉達磨に礼をして片付けを始める。

さて、一応呼吸しているローズをどうしようか……。


「おい、アリエス。ローズを医務室に連れていけ」

「……分かった」


あまりにも露骨にローズへの態度が悪くした筋肉達磨に呆れと侮蔑の感情を覚えるが表に出さずに答える。


たく……この程度の事で生徒を見離すか?能力を高めれるように導くのが教師と言うものだろうに。


「よい、しょっと……」


ローズを抱き上げ訓練場の外に出るとローズの体の大火傷が完全になくなり、穏やかそうな寝息を立てる。


死んだ事も無かった事にできる魔法……いったい誰だこんな超超高難易度の魔法を完成させたのだろうか。気になるが……今はローズを医務室に置きに行くか。

面白かったら、ブクマ、感想をお願いします

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