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第7奏 転入生?

わたしは困っていた。


「ねえねえ、きみぃ。ちょっとでいいからさぁ」

目の前の、金髪頭のちゃらちゃらした男がわたしに囁く。

その周りには更に二人の怖い感じの人がいて、にやにやしながら見ている。

あまりの理不尽に涙ぐみそうになる。

ど、どうしてこんなことになったんだろう・・・・・?



わたしが神無町に帰ってきたのは、実に数年振りのことだった。

いろいろと事情が混み合って帰ってくるのが遅くなってしまったけれど、久々の故郷は穏やかにわたしを迎え入れてくれた。

そう。そして、土地勘を取り戻すために出かけた。

その矢先、いわゆる不良さんに声をかけられ、通りの端で捕まってしまったのだ。

当然、道行く人々は目もくれない。

こんなに人がいるのに、わたしを助けてくれる人は一人もいない。

それは、わたしの今までの生涯を象徴する(あざわらう)ように立ちふさがる。


「おーい?」

突然、金髪頭が顔を寄せてきた。

「・・・・ッ!や、やめて!」

どん、と思わず両手で突き飛ばす。

「ンだてめぇ!」

顔を背けたわたしに降ってくる怒号に身を竦めたとき、一人の少年がわたしたちの間に割って入った。






草葉仁は困っていた。


「てめぇ、ケンカ売ってンのかこらぁ!!」

目の前の、金髪頭のちゃらちゃらした男が吠える。

周りには、同じような柄の悪い連中。

あまりのお約束(テンプレ)に鼻白む。

あー、どうしてこんなことになったんだっけ?


家に誰も居なくなった後、予想外の来客のために減った食材を調達しようと町に出た。

すると、駅前通りの端に不良共がたむろしているではないか。

余計な面倒事に巻き込まれるのも御免なので、少し遠巻きに通過しようとした。したのだが。

「!!」

突然、不良Aが大きく飛び退いた。

避ける間もなく俺の肩にぶつかる。

こちらが避けようとしたのにも関わらず、向こうからぶつかってきたのだ。思わず舌打ちをしてしまうのも無理のないことだろう。

更に、それを聴き逃す不良Aではなかった。

「ンだてめぇ!」

そして、あれよあれよと因縁をつけられ、めでたく壁際で絡まれているのだ。


「聞いてんのかコラァ!」

不良Aが俺の襟首をひっ掴んでがなり立てる。

「・・・・・知ってるか」

空を見上げながら呟く。

もし雲があったら平和的解決をしよう。

なかったら―――――――


「今日は鶏肉の特売日なんだ」


「ああ!?・・・・・げふっ!?」

不良Aの鳩尾に蹴りを入れる。

長年の経験の成果によって、不良Aは呆気なく崩れ落ちた。

それを見た不良B―――――短髪の図体のでかい奴だ―――――が殴りかかってくる。

その素人くさい拳をかわし、容赦ないアッパーカット。

直接的なダメージよりも、突き抜けた衝撃が脳を揺さぶることによって、不良Bは倒れ伏す。

「ひっ!」

じろりと睨まれて、不良Cがたじろぐ。

「失せろ」

俺の一声で、不良Cはすっ飛んでいく。ふむ、利口なバカで良かった。

「・・・・鶏肉」

そうだ。安売り。

そうして、透き通った夕焼け空の下、スーパー目指して歩き出した。




まるで魔法のようだった。


瞬きの間に不良さんがやっつけられていく様を、わたしは呆然と眺めていた。

遂に、立っているのは黒髪の少年だけになった。

少年は心底厭そうに眉を寄せると、背中を向けた。


――――――あ、お礼を言わなきゃ。


「あ、ああの、ありがとうございました!」

しかし、顔を上げたときには、通りに彼の姿はなかった。









「おはよー!」

「・・・・・・・ぅ」


きっと、『おはよう』と言いたかったのだろう。

今日も、仁君は青白い顔で登校して来た。

ほっとくと眠りについてしまうので、仁君が席についた瞬間に恭也君が話し掛け、すかさず私と一穂が畳み掛ける作戦を敢行している。


朝の仁君は視線は泳いで言葉は消え入りそうだが、上手く回らない頭のおかげで冷たくあしらうこともなく、いつもより素直に会話してくれた。

しかも、

「ホント草葉君のお姉さんてキレイだよねー」

「・・・・そう、だろ?」

そんな感じに沙羅さんが褒められると、なんと蒼白な顔に幽かな微笑みが浮かぶのだ。


「おはよう。さぁさ、席につけー」


しばらく会話を楽しむと、美織先生がやって来た。

先生は教壇に立つと、欠席者の有無を確認してから口を開いた。

「今日は一つ、大事な知らせがある。そこの席の生徒が、今日から登校する事になった」

クラス中の視線が、一斉にある席に集中する。

入学式から今まで、一度も使われたことのない席。生徒の名前だけは判明していたものの、それ以外は一切不明のために、様々な憶測が飛び交う始末であった。

「では入ってくれ」

先生の言葉に続いて、教室の扉が開いた。


現れたのは、ぎこちない足取りのために揺れるショートカット。やや大きな瞳。全体的に小動物な雰囲気を持った小柄な少女だった。

少女は黒板のチョークを手に取ると、流れるような美しい筆跡で名前を書くと、こちらを向いた。


「初めまして、高島白亜(たかしま はくあ)と言います。これから、宜しくお願いします」


(か、かわいい・・・・!)

同性の私が息を飲むほど、高島さんは愛らしかった。

周りの男子たちも、どことなく色づいている。

(仁君・・・・仁君は!?)

不安に駆られて仁君を見る。彼は―――――ぼんやりしていた。

一応、礼儀として起きてはいるが、その目がどこを向いているかは不明だ。

正直微妙だったが、まあ良しとする。


「気付いた者もいると思うが、高島の家はそこの守鳴神社だ。無礼を働くと神罰が下るから、気を付けるように」


先生が話している間、高島さんはずっと縮こまって視線を泳がせていた。

そして、一瞬だけ、何かを見てその目が見開かれた。

(・・・・・・?)

けれど、それを確かめる間もなく、彼女は先生に言われて席に着いてしまった。





転入生(ではないけれど)の宿命として、高島さんは休み時間の間ずっと、クラスメイトたちの質問責めを受けていた。

しかし、昼休みにもなると、皆飽きてめいめいに過ごし始めた。


私は、一穂と一緒に昼食を取っている。

恭也君は席で爆睡してるし、仁君は真剣に本を読んでいる。

「ねー、雪奈。ハクちゃん誘わない?」

「白ちゃん?」

「高島さんのこと。ほら、ご飯も一人で食べてるし」

ちらりと窺うと、確かに高島さんは一人でお弁当を食べている。

「そうだね。ここは一つ、声を掛け、て――――――」

そのとき、高島さんが立ち上がり、まったく予想外の行動を取った。

なんと、読書に勤しむ仁君に近寄っていったのだ。

「あの子、なにをやって――――?」

一穂も驚いている。

高島さんは仁君のすぐ後ろに立つと、手をぎゅっと胸の辺りで握り、全身から振り絞るようにして声を掛けようとして―――――――――


「・・・・ッ!!」


仁君が発した、『俺に触るなギザギザハートオーラ』に当てられ、ビクッと身を竦ませた。

それでも高島さんは、震える体を鼓舞して、もう一度口を開くが、

「・・・・ッ!!」

やはり仁君から発せられる黒いオーラに負けて、俯いてしまう。

小さな拳が、さらに強く握り締められる。

めいいっぱいに開かれた目は、潤んで零れる寸前のようだ。


「何やってるのよ、あの子」

一穂はそう呟くと、食べかけのパンを袋に戻した。私も箸を置く。

これ以上、高島さんをあんな目に遭わせておけない・・・・!!

しかし、私たちが詰め寄るよりも先に、固い拳骨が仁君の脳天に炸裂した。


「・・・・・っ!!・・・・恭也!何しやがる!」


恭也君はしかめっ面をして、隣の高島さんを示した。

「この見目麗しいお嬢様が、お前のようなドブ臭い虫けら野郎に用事があるそうだ」

あ、恭也君もちょっと怒ってる。

「何だってんだ・・・・で?」

じろりと高島さんを睨み付ける。

すると、高島さんはまた予想外の挙動に出た。


「昨日は、有り難うございました!」


『!?』


その場の全員が硬直する。

分かるのは、確かに高島さんは、仁君にお礼を言ったこと。

「へえ、仁が人助け?」

胡散臭そうに、恭也君が仁君を見る。

「はい。昨日、不良さんに絡まれてたところを、この方に助けていただいたんです」


「流石、仁君だね」

「いやー、今時珍しい王子様っぷりだねぇ」


そんな女子二人の賛辞を受けながら、仁は恭也の肩をがっしと掴むと、彼女らに背を向けるようにして耳打ちした。

「なあ、俺はあの子を助けたのか?」

「俺に訊くな」

やっぱりな。そう思いながら、彼は白亜に状況を訊くことにした。

「白亜ちゃん、どこでこいつに助けられたんだい?」

「ええと、昨日の夕方に、駅前通りで」

すぐに仁に向き直る。

「おい、昨日、駅前で喧嘩しなかったか」

すると、彼のめちゃくちゃな友人は首を縦に振った。

「したした。向こうから売ってきたんだ」

「当然?」

「ボコした」

「それだ。その時、超偶然的に彼女を助ける形になったんだ」

「まじか。なんか言った方がいいのか?」

「今後気を付けな、ぐらい言っとけば?」


恭也君との内緒話を終えた仁君は、高島さんに向き直ると言った。

「あー。この町は偶にそういうのがいるからな。うん。次から気を付けろよ」

どことなく口調がおかしい。

もしかしたら、助けたことを忘れてた?

そんなことを考えていると、後ろから一穂が囁いた。

(もしかしたら、フラグ立ったかもよ?)

!?そんな、まさか!?

ちらりと高島さんを盗み見ると、仁君を前にして少しそわそわしている。

ま、まさか・・・・!


「ではっ!」


もう耐えられないとばかりに、高島さんは教室の外に飛び出してしまった。

「行くわよ、雪奈!」

一穂は私の手を掴むと、強引に教室の外へ引っ張り出した。



「何なんだ、あいつら」


取り残された野郎二人は、呆然と呟いた。



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