最初の授業
「ところで、セフィって何者なの? ただの砂風呂屋さんじゃ、ないよね?」
俺の質問にセフィはゆっくりと首をふる。
「そこは、師匠」
「えっ?」きょとんとしてしまう俺。
「師匠と言いなさい。それがけじめなの」
「あ、ああ。はい。師匠は何者なの?」俺は言い直す。
「何者って、どういう事が知りたいの? さっきの契約の文言の事かな?」
と首をかしげるセフィ。
俺は同意の頷きを返す。
「蒼金の瞳っていうのは、私の氏族名よ」
「……それだけ?」
「それだけ。ああ、闇属性カーストには養育院がないのは知ってるわね。だから私たちは各氏族で属性魔法の教授を行うのよ。さっきの契約は血族以外を弟子にするための文言だから。それでレプリは聞きなれなかったのかな」と納得顔のセフィ。
──いや、そういう事じゃ無いんだけどな。これははぐらかされてる?
俺は釈然としないながらもこれ以上聞くのは無駄かと諦める。
そこで1つパンと手を叩くセフィ。
「さて、早速始めましょうか。リコを預かるわ」
「え?」と思わず漏れる俺の声。
「闇属性魔法は、『闇を見通す眼』から始めるのよ。それには闇に包まれることに慣れていなきゃいけないの。リコちゃんがいたら明るくてそれどころじゃないでしょ?」
俺はしぶしぶ、腕の中のリコをセフィに渡す。
「次はこれを食べて、食べ終わったらこっちを飲むの。食事、まだだったんでしょ? そしたらここで安静にしててね。ガッソには伝えておくから」
俺は大人しく出されたものを食べ始める。
いつもの乾燥肉とは趣が違う。堅さもだいぶあり、苦労して咀嚼すると何とか飲み込む。
やれやれと、飲み物を口にして思わず吐き戻しそうになる。
鼻をつく刺激臭と舌を刺す酸味。
こちらも何とか飲み込むが、咳き込んでしまう。
「あら、初めてでちゃんと飲めたわね。えらいえらい」と背中を叩いてくれるセフィ。
「し、師匠、腐ってない、これ?」
無言のままの優しく微笑むセフィ。
「大丈夫。必要なの、それじゃあ行くわね」
と、それだけを告げ、セフィはリコを連れて出ていってしまった。
闇に包まれる部屋。
ポツンと佇んでいた俺の体は、徐々に熱を帯びてきた。




