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悪役令嬢、家族が増える

 楽しかった修学旅行から帰ってきて、私は玄関先で首を傾げた。

 少し大きなスニーカー。なんだか、見覚えがあるような?


「あらおかえりなさい」


 お手伝いさん、というか敦子さんのお友達枠な八重子さんが玄関でお出迎えしてくれた。


「敦子、まだなんだけどねー。圭くん来てるわよ」

「圭くん」

「ほら、敦子の甥っ子の息子さん」


 私は頷く。……どうしたんだろう?

 着替えてリビングに向かうと、圭くんはちんまりソファに座って紅茶を飲んでいた。


「……おかえりなさい」


 ちらり、と私を見上げる可愛らしい目!


「た、ただいま!?」


 思わずどもって変な言い方になってしまった。は、恥ずかしい。圭くんも吹き出す。

 ちょうどそのタイミングで、リビングの扉が開いた。


「あら華おかえりなさい、どうだった? 関西は」

「たーのしかったよー! って、いうか」


 ちらり、と圭くんを見ると、敦子さんは「ああ」と優しく微笑んだ。


「今日からしばらくウチで過ごすから。仲良くしてね」

「へ!?」

「ごめんねハナ」


 しゅん、と圭くんは軽く眉を下げた。


「同じくらいのトシのオトコと一緒に暮らすの、イヤかもだけど」

「え、全然イヤでは……ないんだけど」


 どうして? と私は首をかしげる。


(ゲームのシナリオみたいに、お父さんが亡くなられた感じの雰囲気ではないし)


 圭くんはそれでも、少し辛そうに眉をよせた。敦子さんがあえてっぽい明るい声で「大丈夫よ」と言う。


「手術、うまくいくに決まってる」

「……うん」


 そして私に向けて、敦子さんは説明してくれる。


「この子の父親ね、日本で検査を受けるために帰国していたの」

「検査を?」

「そうなんだ」


 圭くんが話を引き取る。


「なんか、ある日急に日本で人間ドック受けるって言い出して」

「えっ」


 私はぴくりと肩を揺らす。もしかして、あのSNSに送ったメッセージ、不審がらずに受け止めてくれたのかな?


(もしかして、自分でもどこか変だなと思ってたのかなぁ……)


「それで、脳に腫瘍が見つかって」

「ええっ!?」


 思わずギクリとしてしまう。だ、大丈夫なんだろうか!?


「検査結果聞きに行って、そのまま入院。おれは一度、オジーさんだとかいう人の家に連れて行かれたんだけど」

「オジーさん?」


 聞き返しながら思う。てことは、敦子さんのお兄さん、かな?


「あんのクソ兄貴の娘にいびられてたらしいのよ可哀想に」


 吐き捨てるみたいに敦子さんは言った。


「え、娘って」


 大人じゃないんだろうか。大人がそんなこと……!


「酷い」

「あー、娘って言ってもね、後妻との娘。あなたと同じ歳よ、華」

「へー、同じ歳」


 そんな親戚がいたのか。まぁ、圭くん以外の親戚、会ったことないからなぁ……。


「圭がそんな目にあってる、って小耳に挟んでね。アナタならまぁ、そんなイジメみたいなことしないでしょうし」


 私はぶんぶんと首を振った。しない、しない!


「そんな訳で、この子の父親が退院するまで、ウチで暮らすのよ」

「はー。了解です」


 私は微笑んで、圭くんに手を差し出した。


「よろしくね」

「……あのさ」


 圭くんは首を傾げた。


「あんまり、おれに触らない方がいいの、かも」

「なんで?」

「死神だって」


 私は凍りつく。なんですって?


「天使みたい?」


 可愛すぎて? そっか、自覚してたのか。


「お迎えって意味ではそうかもだけど、違うよ」


 圭くんは淡々と続ける。


「シュリーーその、オジーさんの娘に言われたんだ。アンタは死神なのよって」

「はー!?」


 私と敦子さんはほとんど同時に叫んだ。なんだそりゃ!


「なんでそーなるの!?」

「おれのハハオヤも、おれが生まれてすぐ死んだから」


 圭くんは無表情だけれど、その目には耐え難いくらいの寂しさが浮かんでいた。


「チチオヤもそうなるだろう、ってシュリは言ってた。お前に近しい人間は死んでいくんだって」

「ぜーったい関係ない!」


 私は叫ぶ。叫んで、圭くんの手を握る。


「約束する! 私、ちょー長生きするんだから!」


 圭くんはぽかんとした後、ほんの少しの後、ぷっと吹き出した。


「ご、ごめんね」


 笑いながら、圭くんは言う。


「おれ、何気弱になってたんだろ」

「そうなるのも当たり前じゃない」


 敦子さんが優しく圭くんに触れた。


「父親は心配だし、言葉はわかるとは言え知らない国よ? 弱気になって当然」

「……かなぁ」


 そう言いながらも、苦笑して敦子さんを見上げる瞳は、可愛い外見とは裏腹に、ずいぶんオトナびていて。


(けっこう芯の強い子なんだなぁ)


 私はちょっと感心してしまう。


(でもせめて、ウチでは甘えてて欲しいよね)


 せめて少しは支えになれるようにしよう、私はそう決めたのでした。

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