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悪役令嬢はお友達が増える

 翌日は朝から観光、午後からは各自大阪のテーマパークまで電車でくるように、とのお達しで。どうやら公共の乗り物に乗る練習、らしい。


(とはいえ、そんなに不慣れな子もいないと思うんだけどな)


 "庶民組"のみんなはもちろん、超セレブな樹くんですら電車は乗ってる。

 前世で中学生してた時にも、こういう研修的なのはあったんだけれど、みんな塾なり遊びなりで電車もバスも乗り慣れてて、「なんでわざわざ……」とは思ってた記憶がある。

 とはいえ慣れない土地、乗り換えなんかは難しいはずだ、なんて思っていたら。


「電車なんて! 電車なんて!」


 ちなみにこれ、楽しげな口調です。

 朝、集合のロビーでテンション爆上げになってる水宮さんを発見した。竜胆寺さんと楽しげに会話している。


「人生で何度目かですわっ」


 私はぽかんと宮水さんを眺める。そんなに楽しみなのかー。


(可愛いなぁ〜)


 つい、にんまりしてしまう。

 超純粋培養お嬢様じゃないですか……。箱に箱を入れてさらに箱を入れた箱に入った箱入り娘なんだろうなぁ。入れ子構造。

 私の視線に気がついた宮水さんが、さっと頬を赤く染めた。うわぁ、恥ずかしがらせてしまった!


「え、いや、違って! 私もこっちの電車あんまり乗ったことはないし、気持ちわかるなぁって!」

「え、あ、そうですの?」


 宮水さんはフンワリ微笑んだ。テキトーな話を信じてくれちゃって……。人を疑うとか悪意とか、すっぽり抜けてそうでオネーサン心配になっちゃうよ。


「そういえば、その」


 宮水さんはふと、口を開いた。


「たまに、設楽様、わたくしたちを見てらっしゃいましたね?」

「へ?」

「あの、中庭にいるとき……」


 言いにくそうに言った宮水さんに、私は慌てて弁明を重ねた。


「わー、それこそ違って、ええとええと」


 まさかガチお嬢様の会話を妄想して楽しんでました、なんて言えません! うふふこれは砂糖漬けのスミレ、まぁそれ素敵なレースですわね、ありがとう自分で編んだのよ……。


「あの、楽しそうだなあって」

「え?」

「それに、みなさん、可愛いなぁって」


 それだけ、なんです……としりすぼみに伝えると、宮水さんはなぜか眉をきつく寄せた。


「……ごめんなさい」

「え!?」


 ものすごく唐突に謝られた。


「申し訳ありませんでした」

「な、何が!?」


 目を白黒させていると、宮水さんはニコリと微笑んだ。


「どうか、お友達になってくださいますか」

「へ!?」

「ダメでしょうか」


 悲しげに伏せられた瞳! いやいや、そんな、でも私なんか。可愛らしい唇を少し噛む白い歯。うう!


「わ、私で良ければ……?」

「あ、ありがとうございますっ」


 宮水さんは手を重ねて、にっこりと笑った。うおお、マジモンのお嬢様の笑顔、眩しすぎやしませんか……!?

 やがて先生から色々話があって……というか、注意点をズラズラと並べ立てられて、それからやっと班行動が始まった。

 お昼間は伏見稲荷神社を散策。

 それから早めにテーマパークへ向かおう、という話になった。


「貸し切り自体は19時半からだが、入園自体は何時でもいいらしいからな」


 集合に間に合いさえすれば、と樹くんは言う。


「下手に時間を押すより、ゆっくりしたほうがいいだろう」

「そんなこと言ってさ」


 ひよりちゃんと手を繋いだままの、如月くんが言う。


「鹿王院、ほんとは楽しみなんだろ」

「む」

「遊園地、好きだもんな」

「……」


 樹くんはほんの少し、むっとした顔をしたけれど私は見逃さない。耳たぶがちょっと赤い。


(あれ!?)


 なんでだろ、子供っぽいとか、男らしくない、とか思ってるのかな? 別に全然、そんなことないのに。


(普段、オトナみたいに振る舞ってるからなぁ)


 サッカーの時はちゃんと少年してるのにね。なにか気恥ずかしいものがあるのかもしれない。


「あは、いいじゃん。遊園地。私も好きだよ」

「そうか?」

「うん。いっぱいあそぼーね!」

「……実は乗りたい乗り物が沢山あって」


 樹くんはいくつかの絶叫マシンを挙げた。私は思わずクスクス笑う。


「どうした」

「だって、私と乗りたいの全部被ってるんだもん」


 気が合うね、と背中を叩くと樹くんは少し難しい顔ーー例の照れてる顔をして、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに、なんて思う。今日は童心に返って楽しみましょう!

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