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悪役令嬢はホームシックになる

 そのあとは、みんなで湯豆腐食べて、別の神社(縁切りで有名らしい!)でお願いがいっぱい書かれてる石の穴を潜ったりして一日が過ぎていった。


「ほなな〜」

「また明日ねぇ」

「さすがに帰りますわよねお兄様!?」


 なんやかんや、アキラくんたち3人と1日騒がしく班行動をした私たちです。


「明日はテーマパーク貸し切りだっ!」


 夕食の京懐石をもぐもぐといただきつつ(このままだと余計に太るぞ……?)ひよりちゃんとはしゃぐ。お昼間じゃなくて夜の貸し切りで、貸し切りなんか初めてだからイヤでもテンション上がってしまう!


「あ、あのさあ? 華ちゃん」

「なにー?」


 焼き生麩をもぐりと噛んでいると、ひよりちゃんが小声で私に言ってくる。


「テーマパークさぁ、……如月くんと2人で行動しても、いいかなぁ?」


 私はごくりと焼き生麩を飲み込む。そ、それがあった!


「いいよ!? いいけど、一体なにがあったの!?」


 真っ暗なお堂で!?


「うふふ」


 ひよりちゃんは両手を頬に当てて、にっこりほほえんだ。


「ひみつー」

「ぼ、煩悩だ」


 お寺なのに。煩悩まみれだ。……ま、いっか。


(幸せそうなんだもんなぁ)


 生姜あんで絡められたくみ湯葉を口に運ぶ。うーん、美味しい。そこで、はたと気がつく。


(……じゃあ、私、樹くんと2人かぁ)


 別にいいんだけど。樹くんはいいんだろうか? ちらり、と正面に座る樹くんを見るけれど、綺麗な箸使いでもぐもぐと平らげていく樹くんは、私のことなんか何とも思ってないように思えた。


(ていうか、思ってないか)


 割と仲は良いけれど、と私は鱧の湯引きを口にいれた。

 その日の夜。


「ちょっとお話してくるねっ」

「はいはい〜」


 ひよりちゃんに手を振って見送る。ロビーで如月くんとお喋りするらしい。


(可愛いな〜)


 こっちまで嬉しくてキュンキュンしてしまう。だって、ひよりちゃん。色々あったんだもん。


(あーの、クソ彼氏ぃ)


 ひよりちゃんを裏切ったクソ男を思い返す。……いちばんの幸せは、自分が幸せになることだよね。


(……あーダメだ、やっぱ前世の自分と重ねてたなぁ)


 ひよりちゃんと、自分を。そんなこと、頼まれてもないのに。失礼なことだと思う。

 反省。反省だなぁ。

 部屋でダラダラとテレビを見ていると、音楽番組が始まった。


『昭和から最新までのヒット音楽を振り返ります!』


 司会者が言う。ランキング形式のそれは、時折ゲストの「懐かしい!」なんてコメントを挟みながら進んで行った。


(ぜーんぜん知らない人たちだよなぁ)


 前世の記憶と、重なる人たちは誰一人この液晶画面に映っていない。知らない歌、知らない音楽。


(……寂しい)


 唐突に孤独が胸を締め付けた。泣きそうになって、ソファで身体を丸める。


(怖い)


 慣れてるつもりだった。ここで生きてるつもりだった。こんなことで、急に孤独を突きつけられるとは思っていなかった。


(ひとりじゃないのに)


 ひとりじゃない。それは分かってる。友達もいる。家族もいる。それでも、私は寂しくなった。……ホームシック、みたいなものだろうか?


(帰りたい)


 ぽろり、と涙が溢れた。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

 ここは、私の知ってる日本じゃない。

 同じ言葉。同じ文化。少なくとも、見ている感じだと戦前あたりまでは同じ小説家もいる。でも最近のものは、知らない音楽や、小説やマンガであふれている。知らない芸能人、知らない政治家、知らないアナウンサー。


(家族に会いたい)


 敦子さん、ごめんなさい。敦子さんも、優しいおばあちゃんだけれどーー私は、私のおばあちゃんに会いたい。おかあさん、おとうさん。お姉ちゃん。可愛い甥っ子たち。

 身体を震わせていると、こんこん、と部屋のドアがノックされた。


「……?」


 ひよりちゃんなら、鍵を持ってるはずだし。誰だろう?

 私は立ち上がり、ドアスコープから廊下を覗く。そこにはアキラくんが立っていた。


(……なんで)


 涙が溢れて止まらない。なんで、なんで、いつもこういうタイミングで、きみは。

 私は自分が号泣してることも忘れて、ドアを開ける。だって声が聞きたかった。あったかさに触れたかった。この世界で、初めて私を認めてくれた人。いてもいいんだと伝えてくれた人。


「おう華、ロビーでひよりサンに会うて部屋番号教えて……もろーて……」


 手に、小さなお菓子っぽい箱を抱えていたアキラくんは驚きすぎた表情で私を見る。


「なんかあったん!?」

「……ううん」


 私は首を振って、アキラくんの服の裾を掴んだ。


「なにもないの」

「なにもないことあるかいな」


 ぱたり、とドアが閉まる。


「どないしたん」


 不器用な手つきで、私の涙を拭おうとしてくれる。そんなことされると、余計に涙が溢れて止まらなかった。

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