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悪役令嬢は胎内巡らない

「そうですか」


 樹くんは淡々と言った。


「暗いところはお嫌いでしたか」

「んー? 冗談キツイなぁ樹クンったらぁ、僕がいつそんなこと言った?」

「? 苦手だからパスされるのかと」


 樹くんと真さんが清水寺の胎内巡りできるお堂の前で言い合っている。

 結局、アキラくんと鍋島兄妹も一緒に清水寺観光をしよう、って話になったんだけれど……。

 ところで胎内巡り、っていうのは真っ暗なお堂の中を、手摺りがわりの大きな数珠を頼りに巡って、それによって生まれ変わる気持ちになれる、っていう……まぁ半ば観光化してるけど、本来はそういう修行らしい。

 そこに行く行かない、の話になって、真さんが「僕はパス」って言ったところ、樹くんが(一切悪気なく)暗いところ苦手なんですねー、みたいなことを言っちゃったのです。そうなると、ただでさえ樹くん好きじゃない真さんはもはや脊髄反射的にこう答えた。


「行くよ。ヨユーだよ」


 ふん、と真さんは目を細めた。……案外このひと、子どもっぽいよなぁ。負けず嫌いだし。


「私たちはパス〜」


 私と千晶ちゃんは手を振る。


「え、なんで?」


 アキラくんはそう言ったあと、ふとうなずいた。


「暗いからあかん?」

「んー、多分大丈夫、なんだけど」


 室内だし。


「やめとくね」

「ん、そーしとき」

「え、ふたり行かないの?」


 ひよりちゃんが首を傾げた。


「じゃあ、わたしも」

「行こうよ、ひよりサン」


 如月くんが、勇気を振り絞った感じでひよりちゃんに伝える。


「怖かったら手、繋ぐから」

「それはいいけど」


 ばっさり。が、がんばれ如月くん!


「行っておいでよ、ひよりちゃん」


 私は言った。


「どんなだったか、感想聞かせて」

「そーうー? じゃ、行こうかな」


 笑うひよりちゃんを見て、少し罪悪感が湧く。だって、実は千晶ちゃんと2人きりになりたかった。


(ちょっと、確かめたいことがあるんだよねー……)


 みんなを見送って、千晶ちゃんと目が合う。千晶ちゃんも気になってたみたい、だった。


「……トージ先生の話でしょ?」

「実はその通り」


 千晶ちゃんの指摘に、私は頷く。トージ先生こと、桐山先生。


「多分、トージ先生。前世持ち、だと思う」

「ほんとに?」

「見たら分かるよ」


 あそこまでゲームのビジュアルと乖離してたら、それを疑っても仕方ないと思う。

 私たちはウロウロと桐山先生を探し始めてーーすぐに見つかった。「清水の舞台」からぼうっと京都の街並みを眺めている。肩からは、例の個人情報たっぷりのカバン。


「桐山先生」


 声をかけると、びくりと振り返った。


「わ、なに? 設楽さん……あれ?」


 不思議そうに、桐山先生は千晶ちゃんを見る。千晶ちゃんはニコリと笑って「華ちゃんの友達です」と挨拶した。


「家族旅行中だったんですけど。たまたま出会って」

「へー」


 先生は笑った。


「すごい偶然もあるんだね」


 微笑む先生を見る千晶ちゃんは、少しビックリしていた。こんなに違う、と思わなかったんだろうと思う。


「ところで、どうしたの? 班のみんなは?」

「ええと、みんなは胎内巡りで……」


 聞きたい。すっごい聞きたい。前世の記憶ありますか? って聞きたい。


(でも違った場合、ものすごく痛々しいよね!?)


 先生は不思議そうに私たちを見ている。


「あの、聞きたいことがありまして」


 言い淀む私と対照的に、千晶ちゃんはズバリと聞いた。


「先生、前世の記憶あります?」

「……は?」


 先生はぽかん、とした。


「……え、君たち、えーと。そうだねぇ、ごめんね、僕、特定の宗教には」


 勧誘だと思われたらしい。違う違う!


「違いますって……あれ、きゅきゅたん」


 千晶ちゃんは、先生のカバンから出ていた人形に気がつく。手作りっぽい、女の子(?)の人形。


「え、」


 先生は呆然とした。


「あれ、こっちの世界にあったっけ……やっぱり先生、前世の」


 そう言った千晶ちゃんの言葉は途中で途切れた。先生が号泣しだしたから。


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