悪役令嬢は少し胸が痛い
翌日は朝から京都に移動して、観光。最初は定番、清水寺、だったのですが。
「……あれ?」
「え、何しとるん」
清水寺へ向かう途中、班ごとで歩いていた産寧坂で、やたらと目立つ男の子がいるなー、と思ったらアキラくんなのでした。
「修学旅行だよ!」
「や、それは知ってんねんけど、なんか反射的に」
アキラくんは平日なのに激混みな人混みをかき分けて、私たちの方へと歩いてくる。
樹くんが不思議そうにしながらも、「久しぶりだな」と軽く手を上げた。あの学校、人数多いから、学年違うとそうそう遭遇しないんだよなぁ。
(私は割と会ったりするけど)
不思議なことに偶然廊下で鉢あったりする。何か縁的なものがあるのかもしれない。
「あれ、山ノ内くん?」
ひよりちゃんも不思議そうにアキラくんを呼んだ。よっす、とアキラくんは片手をあげる。
「や、親戚の法事で京都きててん。部活の先輩のパシリで、ここのお守り買うていかなあかんねん」
アキラくんは肩をすくめた。
「なんのお守り?」
「清水寺ん中の、地主神社分かる?」
「分かるっ」
ひよりちゃんは手を上げた。
「恋愛! の! 神様!」
「……」
アキラくんはちらりと私を見る。ええ、まだあの埒外さんにお熱みたいです。
「ま、色々あっての青春やからな……」
「ちょっと、振られるの前提みたいな話しないでくれる!?」
ぷう、とひよりちゃんは頬を膨らませた。や、振られはしなくても取っ替え引っ替え……うう、如月くん頑張ってよう。
「まぁそこの神社のや」
「ふーん?」
ひよりちゃんは、ニヤリと笑った。
「それ、男の先輩?」
「や、女。女バスの」
「それってさぁ〜」
つんつん、とアキラくんをつつく。
「その人、山ノ内くんのこと好きなんじゃないの〜?」
「わぁ!」
私は思わずアキラくんを見た。なにそれ甘酸っぱい……。
「ちゃうで?」
思い切り真剣な目で言われた。
「えー?」
ひよりちゃんは諦めない。
「でもそうじゃないのー? 遠回しな告白〜」
「ほんまにちゃうねんて」
アキラくんは眉を下げて笑った。
「先輩の好きな人は、男バスの方の先輩」
「ほんとにー?」
「ほんまほんま。もう2年片思いしてはるから」
そう言った後、アキラくんは首を傾げる。
「……ちゃうか、もう両片思い的な感じやな。告白の時のゲン担ぎで持ってたいんやと」
「あ、そーなんだ」
ひよりちゃんは少しツマラナサソウに言ったあと、少し笑った。
「山ノ内くんは買わないの?」
「なんを?」
「恋愛成就?」
ふふ、とひよりちゃんが笑うと、アキラくんは肩をすくめた。
「せやなぁ。せやけど、まだ意識してもらうトコからやし」
「なんかねぇ、誰応援したらいいか分かんないよ」
ひよりちゃんの謎のセリフに、なぜかアキラくんは苦笑した。
(でも、)
私は首をかしげる。
(とりあえず、アキラくんに好きな人がいるのは確定だよね)
鎌倉観光の時も言ってたし、……と思うと少し胸がずきりとする。
「?」
なんでしょね、この痛みは。
(歩きすぎたかなあ)
私がそんな風に首を傾げたとき、樹くんが「……鍋島さん?」と口を開く。
「? 鍋島?」
鍋島さんって。目線を向けると、そこには千晶ちゃんと真さんがいた。
「あれー!?」
「やぁ元気そうだね」
ヒラヒラ、と手を振りながら真さんは颯爽と歩いてくる。人混みをかき分けすらしない。なぜなら向こうから避けてくれるからだ。
堂々とした歩き方。
「どうしたんですか?」
樹くんの問いかけに、真さんは目を細める。
「兄妹旅行の最中だよ」
「相変わらず仲が良くて何よりです」
「……どう見たら仲良く見えるの? 鹿王院くん」
千晶ちゃんが疲れた表情で言う。
「どうしたの、ほんとに」
「……旅行というか、なんていうか」
私の問いかけに、千晶ちゃんがムニャムニャと言うのを真さんは楽しげに見ていた。