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悪役令嬢は目を閉じる

(あまり、心配はかけたくないし)


 ふう、と息を吐く。


「とりあえず街まで戻ろか」


 アキラくんが気を取り直したように言う。


「うん、……う」


 私は固まる。


「どないしたん? 華」

「何か思いだした?」


 不思議そうな二人。


「あ、あのね、私……夜道がダメなの」

「ん? 怖いいうこと?」

「怖いっていうか……ダメなの」


 真っ青なわたしの顔をみて、2人は顔を見合わせた。


「ウチの車迎えによこそうか?」

「オトナにバレんのマズくないっすか」

「んー、まぁ」


 真さんは考えてから「じゃ、バイク乗りなよ」と言ってくれた。……バイク?


「ここまで鍋島サンのバイクで来てん」

「え、バイク乗ってるんですか」

「399CCね〜18なったら大型取るから」

「へー」


 中型免許(今はそう言わないんだっけ?)は400以下だっけか、そういえば。


「せやけど俺置いて帰られるんはサミシーっすわ、迎え来てもらえます?」

「押して歩くよ、そんな距離でもないデショ? 華チャンは目ぇ閉じてて」

「や、でもそれ悪いです」


 バイクって、何キロあるの!?


「いいよ、ほんとは僕そもそも二人乗りまだダメだし」

「いつとったんすか?」

「昨日」

「ほんまにあかんやないっすか!」

「ふふふ」


 真さんいわく、16になる1週間前から教習所に通い出して、最短でとったらしい、けど。いきなり違反してる! バイクは免許取得後1年は二人乗り禁止なはずだ……。


「緊急避難緊急避難」

「なんかちゃう気がしますよ!?」

「あは」


 なんだか楽しげだ。


(うー、でもなぁ)


 下手に迎えにきてもらって、そこ経由でオトナにバレるのはマズイ。通報されちゃうかも、だ。まだルナに警戒されたくない……。


「……ご迷惑おかけして、申し訳ないんですけど。お願いします」

「ちっとも迷惑じゃないから気にしないで」

「ちなみにバイクは何キロあるのですか」

「200くらい?」

「お、押せるんですか」

「押せなきゃ免許取れないから」


 私乗るとさらに重くなるのですがっ。


「誤差誤差」

「ええ……」


 真さん、細っこいのに大丈夫なんだろうか……。

 真さんは優雅に立ち上がる。


「じゃあいこっか。こんなしみったれた場所にいつまでもいる訳にもいかないでしょ」

「は、はい」


 立ち上がろうとしてーー私は愕然とした。


(な、情けないっ)


 完全に腰が抜けちゃったみたいで、足に力が入らない。

 情けない顔と姿勢でソファに座り込んでいた私を、アキラくんは持ち上げてくれた。


(お姫様抱っこ!)


 びっくりして目を見開く。しかし。


(あ、アキラくん明らかにぷるぷるしてるっ)


「いいよいいよっ、バイクまで歩くっ」

「なんのこれしきっ」

「でもでもっ、重いでしょう!?」

「重ない! 羽毛みたいやっ」

「気持ちだけで十分だよー!」


 ギャーギャー騒ぐ私たちをみて、真さんはひとつ呆れたようにため息をついた。


「山ノ内クン、キミさ、とっても紳士的だとは思うけれど、中学生には少し早いかな」

「なんなんすか、鍋島サンかて最近まで中学生……っと」


 丁寧な仕草で、真さんは軽々と私をアキラくんから受け取った。

 案外力持ちなのかな……。てか、力持ちだ。私、太ってもないと思うけど、痩せてる訳でもないんですこれがまた。……ゲームの華さんは、びっくりするくらい華奢だったのですが、ええ。食欲の違い、とでも申しましょうか、……なんで悪役令嬢なのに食べても太らないスペックとかない訳!?

 私の内面の葛藤はまるっと無視して(当たり前だ)、真さんはさっさと歩き出す。


「お目目閉じててね」

「え、で、でも」

「いいから、ね?」


 有無を言わせぬアルカイックスマイル。


「は、はい」


 妙な迫力に押されて、言う通りに目を閉じる。

 ガチャリと音がして、外の空気を感じた。


(あ、目瞑ってたら大丈夫、かも)


 真さんに抱きかかえられて、体温を感じているのも大きいかも、だけど。


「ちぇー、俺だって将来的には華の1人や2人、軽々とやな」

「華チャン増殖してない?」


 なんだか悔しそうなアキラくんと、呆れたような真さんの声。


(……お、重いよね)


「すみません、重いですよね?」

「重くないよ」


 即答される。


「いやいやほんと、……ご迷惑を」

「謝らないで」

「でも」

「怒るよ」


 首をかしげて、肩をすくめた。謝ると怒られるらしいので、小声で「ありがとうございます」とお礼を言った。


「うん」


 少し、満足そうな真さんの声。

 ジャリジャリ、という地面を歩く音。春の風がふわりと髪を通り抜けて行った。


「なぁにイチャついてくれとんのですかー」


 不服そうなアキラくんの声。あ、てか!


「ほんとにアキラくんもありがと、ね」


 もう一度、ちゃんとお礼を言う。


「この恩は必ず」

「返さんでええ、返さんでええ!」


 アキラくんの手が、ムニムニと私の頬を掴んだ。


「ええねん、ほんま……華が、無事やった、それだけで」


 アキラくんの声とともに、私はそっとバイクのシートらしきことろに降ろされる。


「ジュニアハイボーイ、華チャン支えててくれる?」

「なんなんすかその呼び方。なんかムカつくっすわ」

「ムカつかれるように言ったんだけど」

「アンタほんまに千晶サンの兄!?」


 セーカク全然ちゃうやんほんま、とアキラくんはブツブツと呟いた。

 アキラくんに身体を支えられて、おそらくスタンドが上げられた。


「もーいーよ」

「はいはい」


 真さんは両手でハンドルを握って、私は真さんの腕にそのまま支えられてる感じで。


「す、すみません」

「怒るよって言ったのに」

「あ、」


 私は目を閉じたまま、眉を下げた。


「ありがとう、ございます……」

「うん」


 やっぱり真さんは満足げに返事をして、ゆっくりとバイクは動き出した。

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