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悪役令嬢はお礼を言う

真さんは予想通り……というか。へんな方向に振り切れちゃってるみたいだった。


「あは、なになにフライミートゥーザムーンって感じ? あはは! 残念だけど月にウサギはいないよ!」


 真さんは楽しげに笑った。


「月にいるのはきっとヨツユビリクガメだ」


 なに言ってるかわかんない。分かんないけど、でも!


(もし、あんなナイフで刺されたりしたら)


 前世の、私のように。

 背中が震え、目に涙が浮かんだ。


「ま、真さ、やめてください」

「? なんで? 人が死ぬとこ見たくないかんじ?」

「真さんが怪我するのが、」


 もしかしたら死んじゃうかもしれないのが。


「いやです」


 真さんが一瞬、呆然と私を見たスキを見計らって、久保はドアに体当たりするように外へ飛び出した。

 真さんも続いて飛び出す。


「待って」

「大丈夫や華、ほんまに殺しはせんやろ、多分、きっと、おそらく」


 最後の方、自信なさそうだった。


「そうかもだけど」

「それよりコレ、外さな」


 アキラくんは「なんかないんかいな」とキッチンをゴソゴソして、すぐにキッチンバサミを持って戻ってきた。


「いけそうや」


 ばちん、と音がして結束バンドが外れる。


「……痕、なってもうとる」


 アキラくんが気づかわしそうな声を出して、私の手首に触れた。

 軽く鬱血した、結束バンドの痕。


「怖かったやろ」


 そう言いながら、アキラくんは手首についたその痕に唇を寄せた。


「……鍋島サンには殺したらあかん言うたけど」


 アキラくんは淡々と続けた。


「撤回やな」

「……アキラくん?」

「アイツマジ一回殺しとこか」


 ほとんど無表情に近い顔でそう言われ、思わずこちらまでぞくりときてしまう。

 その時、窓の向こうで騒ぎ声がして、何かが割れる音がした。がしゃんがしゃんがしゃん! 何度も。私はびくりと固まって、アキラくんは黙って私の手首の跡に触れていた。

 それから車が走り出す音。

 すぐに真さんは部屋に戻ってきた。


「ごめーん、逃した。車の窓は割ってやったから、ていうかボンネットとかもボッコボコにしたから、すぐ警察に目ぇ付けられるとは思うんだけど〜」

「……ていうか、ごめんなさい。何が何だか、なんだけど…….」


 徐々に落ち着いてきて、ものを考える余裕ができてきた。

 真さんとアキラくんは顔を見合わせて、それからアキラくんが口を開いた。

 コンビニで久保が落としたお守りのこと、警察に行ったけど取り合ってもらえなかったこと。


「ほんで、とりあえず千晶サンに連絡とって。ほんまは警察動いてもらえるか思うて連絡したんやけど」


 ちらり、と真さんを見るアキラくん。


「この埒外オニーサマが場外乱闘しよーや言うて」

「言ってないよー。ブッコミかけるとは言ったけど」


 ぶ、ブッコミ。そんな暴走族みたいな……。


「ほんでSNSで情報拡散してやな、車の情報集めまくって。ラチガイオニーサマが推測したんが、ここやったんや」


 ここいうか、この別荘地やな、とアキラくんは言った。


「当たってて良かったよ。ていうか、なんなの埒外って」

「埒外やないっすか」

「シツレーだよね、本当」


 軽く眉をあげた真さんを少し無視しちゃう形で、私は頷いた。


「そうだった、んですか……」

「あー、そんで、ここはアレや。どうも昔景気良かった頃に別荘が乱立してたトコみたいなんやけど」


 私は頷く。


「市内なんやけど、ちょっと山いうか。まぁ鎌倉なんか殆ど山なんやけどな、ここは特にあんま人がおらへんトコみたいや」


 このロッジの前だけ車停まっててん、とアキラくんは言った。久保の、赤い乗用車だろう。車種までは分からないけれど。


「その山道に何回か出入りしてたみたいでな、久保の車。ほんで目撃証言が上がってきたワケや」

「そ、だったんだ……」

 

 私は呆然と返事をした後、姿勢をただした。


「2人とも、助けてくれてありがとう」


 ぺこり、と頭を下げる。

 2人は顔を見合わせたあと、なんだか神妙に頷いた。

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