悪役令嬢は押しに弱い
「本日の試合、もちろん設楽様も応援に行かれるのですわよね?」
真さんが豚さんのお散歩をしてるのを目撃してしまった翌日、学校へ行くと竜胆寺さんに朝一番にそう聞かれた。
(うーん、相変わらずの様付けです)
私は眉を下げた。
竜胆寺さんは私が樹くんの許婚だって知ってから、やたらと下手に出てくるから私としては気まずいしむず痒い。でもそれはそれで、同じ教室で過ごす内に、それなりに気心しれたクラスメイトになりつつ、あるようなないような……そんな関係のお友達(?)だ。
とりあえず、最近は(ちょっと上から目線かなとは思うけど)根はいい子だなとか思ったりもする。私への態度は相変わらず、こんな感じなんだけれど……。ふつうに接して欲しいっていうのが最近の悩みで、まぁそれは置いておいて、応援って何の話でしょうね?
「? なにに?」
「えっ」
竜胆寺さんはポカン、と口を開いた。
「ご存知ない、という訳ではございませんよね?」
「ございますね」
どうやら、と言い添えた。うん、なんのことだかサッパリ分からない。
「あの……鹿王院様からお伺いされておりませんの?」
「樹くん?」
私は首を傾げた。ええっと、何か言ってたっけね。
「今日の放課後、練習試合があるくらいしか」
「それでございますわ」
びしり、と言われた。
「その練習試合でございますわ」
「はぁ」
私は曖昧に頷いた。
(え、練習試合、だよね?)
それって応援とか行っていいものなの?
(色々試したりするんだろうし、ギャラリーいないほうがやりやすいんでは)
そんな風に、思っちゃうんだけれど。
「我が校で行われる試合は、たいてい皆応援に行っておりますわ!」
みんなって誰だろう……。樹くんファン?
「あ、ええと、私は遠慮」
「行きますわよね!?」
竜胆寺さんはバン! と机を叩いた。そんな態度の彼女は初めてで、思わず「ひゃあ」と身体を引いてしまう。
「はっ、し、失礼をっ」
「あ、いえいえ、そんなのは良いんだけれど」
むしろ全然してくれて大丈夫。
「なんでそんなに……?」
「……軽んじられているのですわ」
悔しそうに唇を噛む、竜胆寺さん。
「軽んじ?」
誰に? え?
ぽかんと話の続きを待つ。
「他クラスの者共に、ですわっ」
「も、ものども」
者共って。そんな、大時代的な。
「設楽様は形だけの許婚で、鹿王院様に大切にされていないですとか、試合に来るなと言われているですとか、その証拠に試合の応援などでもお姿を見ないですとかっ」
「へぇ〜」
私は感心して頷いた。物事の本質って、見抜ける人には見抜けるものなのだ。
(ほんとーにお飾りだしなぁ)
大切にされてない、ってのは無いけれど。だって、ちゃんと友達だし。試合にだって観に来ていい、とも言われてる……けれど、その他は当たってる。
(ま、積極的に試合に行かないのはフラグ避けなんだけれどもっ)
ゲームシナリオで、華は樹くんの部活にも試合にもしつこく帯同していた。当然ウザがられること山の如し。同じ轍は踏まないのであります。
(たまには行ってみたいけどねぇ)
あれだけ頑張ってるサッカー、どんな感じなのか見てみたいという叔母的な感情はあるのです。
「へえ、じゃありませんわ設楽様」
「はぁ」
「はぁ、でもございませんわ! よろしいですか、このクラスの矜持にも関わりますのよっ!」
「へ!?」
え、なにそれ!?
「クラスの代表たる設楽様が軽んじられているということは、このクラス自体が軽んじられているということっ」
「ちょ、ちょっと待って」
いつの間に私が代表に!?
(初耳ですよ!?)
慌てている間に話は進む。
「とにかく、本日はわたくしたちと観戦していただきますからねっ」
「え、あの、いや」
「決定! で! ございます!」
私はぽかんとしたまま、勢いに押されてコクリと頷いた。うう、ほんと、押しによわいんだよなぁ私は……。