悪役令嬢はそんなに意外に思わない
珍道中だった。珍道中という言葉がよく合う観光でした。
「お兄様1人いるだけでぐったりよ……」
帰りの電車、千晶ちゃんは本当にぐったりしながら緑色のシートに沈んだ。
私、千晶ちゃん、ひよりちゃんは座らせてもらって、真さんとアキラくんは立っててくれている。申し訳ないなぁと譲ろうとしたけれど、アキラくんの「カッコつけさせてーや」に折れた形です。
「でもさ、千晶ちゃん」
私は首を傾げた。
「楽しかったよ」
「は、華ちゃんまでっ」
千晶ちゃんはそう言うけれど、真さんはやたらと詳しくツアーみたいに解説してくれて(他の観光客もこっそり聞き耳立ててた)、ていうかテレビの撮影と思われてたりもしたなぁ、さすが美形です。
「楽しかったなら良かったよ」
にっこり、とつり輪を持って微笑む真さんはやっぱり綺麗だ。私のとなりに座ってるひよりちゃんは、もはや崇拝みたいな表情で真さんを見上げていた。隣にはアキラくんが立ってて、少し複雑そうにひよりちゃんを見ていた。
(? なんでそんな表情……はっ)
私はピンときた。アキラくんの、恋のお相手って……!?
(ひよりちゃん、可愛いもんねっ)
元気だし、笑顔だしなスポーティな外見なのにピアノがすごく上手っていうギャップもある!
(そ、そーかそうでしたか……)
そこまで考えて、「ん?」と首をひねった。
(……手を繋いでしまってましたよ?)
アキラくんが好きかもな子の前で!
(ご、ごごごごめんっアキラくんっ」
心の中で手を合わせた。あとでちゃんと謝ろう……。
「どうしたの華ちゃん、ひとりで百面相して」
「い、いやなんでも……」
「と、いうか今更なのですがお兄様?」
きっ、と千晶ちゃんは真さんをにらむ。
「今日は部活ではなかったのですか? おサボりに?」
「おサボりて」
思わず突っ込む。サボりに「お」付けなくたって……って、あれ!? 私、案外突っ込みいけるんじゃん!
(アキラくんに突っ込める日も近いなっこれは!)
えへへ、と笑ってアキラくんを見上げると「ん?」って顔をされた。まぁまぁ、待ってなさいな!
「人聞きが悪いなぁ千晶」
真さんは、軽く首を振る。さらりさらりと揺れる黒髪、なんていうか、見事なキューティクル。
「今日はサボってない」
「は、ってことは」
千晶ちゃんは軽く真さんを睨んだ。
「サボってる日もあるんですね?」
「あっは」
真さんは軽く首を傾げた。
「たまぁに、ね」
ふー、と千晶ちゃんは軽くため息をつく。
「いかがなものかと」
千晶ちゃんの続きそうな説教を、ひよりちゃんのウキウキな声が遮る。
「部活って何してるんですか!?」
「ん? 剣道」
「へえ!」
ひよりちゃんは少し驚いたように何度か瞬きをした。
「意外でしょう? 運動してなさそうなのに」
千晶ちゃんの言葉に、ひよりちゃんは頷く。
「うん、ちょっと。ね、華ちゃん」
ヴァイオリンとかしてそう、って言葉に私も頷く。
「たしかにヴァイオリンはしてそうですけど」
てか、似合う。
「剣道は、割とぴったりかもなぁって」
「え、そう?」
不思議そうな千晶ちゃんに、頷く。
「真さん、背筋ぴんってしてるし。歩き姿とかキレイだし、納得かも」
「……言われれば、たしかに」
何気なく見上げると、真さんの視線とかち合う。探るような目つき。
(!? な、なに!?)
思わず目をそらした。なんだろ、あの透明な視線は。
「あ、ついた」
ひよりちゃんの声で、やっと目線を上げることができた。路面電車(正確には路面電車じゃないらしいんだけれど)の終点だ。真さんもドア方面を見ている。ふう、と肺から息を吐き出した。