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悪役令嬢、待ち合わせる

翌日、待ち合わせしてる駅前に着いたのは私が一番乗りみたいだった。ちらり、とお子様スマホ(ネット制限とかあるやつ。敦子さんに買ってもらった)の時計を見る。


(15分前かぁ)


 早く来すぎたなぁ、なんて思いながらふと改札を見ると、ちょうどアキラくんが改札を出てくるところだった。


「アキラくん、こっちーー」


 そう話しかけて、私はびっくりして彼にかけよる。


「アキラくんっ、また怪我してるじゃんっ」


 右手首に、白いテーピング。なんだか痛々しい!


(昨日の試合、でかな?)


 思わず眉を下げた私に、アキラくんはからからと笑う。


「大したことないでこんなん」


 アキラくんは軽く手首を振った。


「かるーい捻挫や」


 骨折に比べたら大したことない、って言うアキラくんを私は見上げてーー。


(見上げて?)


 ん? と私は一瞬戸惑った。あれ?


(そーいや最近こんな感じ……ってことは)


「……アキラくん、私より背ぇ高くなった?」

「今更かいな!」


 ぶはっ、とアキラくんは吹き出す。


「ちょい前にならんで、中二なってからは華より高かったで!?」

「うっそー」

「もう160やもん」

「……!?」


 このあいだの身体測定、私は157センチ、たぶん平均くらい。


(で、でももう3センチも抜かれてたたなんて……!)


 思わず、私は目を細めた。なんだかアキラくんがまぶしく見えて。


(私より、ずっと大きくなるんだろうなぁ)


 背も伸びて、背中も広くなって、声も低くなって、男の人になっていく。"ゲームのシナリオ"でのアキラくん、高校生にしては背が高かった気もするし。バスケしてるから、かな?


(ちょっと寂しい)


 これってあれか、お母さん……ではないけれど、年の離れたお姉ちゃんか、もしくは叔母的な? そんな感覚なんだろうか?

 アキラくんはじっと私を見ていた。気がつくと、少し真剣な表情でーー。

 その時、背中をちょんちょんと突つかれる。


「わわっ!?」

「あっは、華ちゃんびっくりしすぎ〜」


 後ろにいたのは、ひよりちゃんと千晶ちゃん。


「あ、あれっ!? いつのまに!?」

「割と前からおったで」


 アキラくんは少し楽しげに言った。


「華ちゃん全然気がつかないんだもん〜!」


 ひよりちゃんが笑って、それから千晶ちゃんがアキラくんに微笑む。


「華ちゃんから聞いてるよ。このあいだの美少女君だね」

「美少女君は言い過ぎやで、けど褒めてくれてサンキューっす。ええと、鍋島センパイ」

「あは、アキラくん、タメ口でいいよ。千晶でだいじょーぶ」

「ほんま? 俺敬語苦手やねん」


 ありがたいわ、とアキラくんはふにゃりと笑って、千晶ちゃんは「ほーん」って顔をした。多分「わぁゲーム通りやっぱりイケメンだ」とか、なんかそんな感じの表情だった。


「でも本当に華ちゃんこうなったら、こうね」


 ひよりちゃんは目の横に両手を当てた。


「視界がこう、まっすぐっていうか。一個に集中しちゃうと他が目に入らないよね」

「そ、そうかなぁ」

「手を振ったりとかしてたのに」


 くすくす、と千晶ちゃんは笑う。


「案外芸術家肌かも。ピアノとかしてみる?」


 向いてるかもよ、なんてひよりちゃんに言われるけど、わたしは無言で首を振る。リズム感皆無なのですよ……。


「けどやな華、あかんで。そんなぽけーっとしてたら。まぁ今回俺相手やからどんだけぽけーっとしてもらってもええねんけど」


 ……そう改めて言われると照れますね。いや、なんか姉か叔母的な感覚で成長に感動してただけなんですけども。


「変な男とかに着いて行ったらあかんで」

「行かないよ」

「ほんまかなぁ」

「大丈夫だよ、おと……」


 大人なんだから、と言いそうになって飲み込んだ。危ない危ない。


「おと?」

「おと、お……男の人になんか着いていかない、からっ」

「おう、その意気やっ!」


(な、なんとかごまかせたかな?)


 私は1人で苦笑いをして、千晶ちゃんは何か察したのか「こほん!」と咳払いをした。うーん、まだ自分がオトナって感覚が抜けきらない、というか何というか……。



「ほな出発しよーか」


 私は千晶ちゃんに頭を下げる。


「ガイドお願いしまっす!」

「……そうなる気はしてたんだけど、ねっ」


 しぶしぶって顔をしてるけど、少し楽しそうなのでお任せしてしまう。


「千晶サン詳しいん?」

「少なくとも、わたしや華ちゃんよりは」


 ひよりちゃんも笑ってそう言う。


「歴史好きだもんね」

「ふふ、そうなの」


 2人の会話を聞いていて、私は「やっぱりなぁ」とちょっと確信する。


(前世のこと思い出してなくても、前世での記憶や経験は今世の性格に影響を与えてたんだ)


 じゃあ、やっぱり「ここ」は「ゲームの世界」とは一概に言えないのかもしれない……。


「あ、すみません」


 ぼけーっとしてしまって、私は人にぶつかってしまう。スーツ姿のおじさん。


「あ、いやこちらこそ失敬。というか、だね、君、モデルとかに興味」

「ないなーい、すんませんオッサンそういうの事務所通してもろうて」

「あれ、なんだもうどっか所属してるのか」


 何が何だか分からない会話がポンポン飛び交う内に、アキラくんに手を引かれて、少し前を歩いていた千晶ちゃんとひよりちゃんのとこまで連れていかれる。


「ごめん、人にぶつかってた」


 アキラくんもありがと、とお礼を言うと呆れ顔で耳を摘まれた。


「え、なになに!?」

「知らん人に付いて行ったらあかん言うたばっかやのに!」

「え、あ、ごめん?」


 でも付いてったりはしてないよ!


「もうさあ、山ノ内くん」


 ひよりちゃんが笑う。


「今日、人多いし。手ぇ繋いでた方がいいかも、華ちゃん」

「せやな!」


 アキラくんはなぜか食い気味にそう返事をした。


「え、そんな、悪い」

「悪くない悪くないー! ほないこ! ちゃっちゃと行こ!」


 アキラくんはスルリと私と手を繋ぐ。


(……中学生男子ってこんなだったっけ?)

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