関西弁少年は頼られたい
「すまんなー、散らかっとるやろ!」
小さいちゃぶ台のようなものを運んできたアキラくんが、それを部屋の真ん中に置いた。
「てかごめんね、ほんと急に」
「や、顔色良くて安心したわ」
真剣な顔で言われて、ちょっとドキッとしてしまう。なぜかアキラくんに抱きしめられる感覚まで思い出してしまって。
(イヤイヤイヤイヤ、落ち着け私! 中学生相手に!)
「ご、ごめんね、みっともないところ、を」
「みっともなくなんか、あらへん」
(め、目力やばい)
まっすぐな目だ。……ちょっと羨ましい。十代の子しかできないような、そんな目だと思った。
「う、うん」
「お茶もらってくるな」
ベッドの上から枕を取ると、ちゃぶ台の横にぽん、と置いた。
「ゆっくりしといて!」
にこりと笑って、部屋からでていくアキラくん。
(……枕に座れと?)
さすがにそれはできないので、遠慮して更にその横に座った。
やることもなく、本棚を眺める。マンガ以外は、バスケ関係の本とか雑誌ばっかりだ。
(あ、これ、入院中に借りた本)
続刊が出ていた。どうしよう、ちょっと読みたいかも。でも勝手に本棚触るのもなぁ。
ほどなくして、アキラくんはお盆にお茶と羊羹を乗せて戻ってきた。足でドアを閉める。そういうとこは中学生だなぁ。
「なんか読んでて良かったのに」
「ううん、ありがとう。でもこれはちょっと気になってる」
「あ、それな! あれやったら持ってってえーで!」
いつでもええし、と言うアキラくんにお礼を言ってありがたく借りた。
「ヨーカン、美味そーやな」
「これね、オススメの羊羹なの。美味しいよ」
樹くんのお家でいつかいただいたやつ。あれからすっかりお気に入りで、たびたび買いに走っているのだ。横浜にも、鎌倉にも店舗がある。
「ほんまにー」
「てか甘いもの大丈夫だったよね?」
入院中、コンビニで色んな甘いお菓子、食べてたはずだったけど。
「おん。ヨーカンも大好物やって」
2人でいただきます、と手を合わせて羊羹をぱくりと口に入れる。フンワリとした甘み。今日は栗無しの、普通の羊羹。
「甘すぎへんでいい感じやなこれ」
「でしょ」
にこっ、と笑うと、アキラくんは安心したように微笑んだ。
「やっといつも通りなカオした」
「……あ」
「ま、無理に笑うことはないねんけどな」
更に一口羊羹を食べてから、アキラくんはぽんぽん、と私の頭を撫でた。
「ええと、ええと」
あんまりにも優しい顔で、私はものすごく戸惑ってしまう。けど、……本当に有難い。
(さすが攻略対象だよなー……)
性格までイケメンです。
「あの、……ありがと」
「……おう」
アキラくんは照れたように明後日の方向を見た。
(そこは照れるんだ)
ちょっと、くすっと笑ってしまった。アキラくんは不思議そうに私を見る。
(よーし)
私は少し居住まいを正す。
今日ここにきたのは、お礼と、そして情けないながら……、ちょっとした「お願い」をするためだった。
「……何も聞かないの?」
「言いたいなら聞くけど、言いたくないならいい」
淡々と、そう答えられる。
「あのね、……知ってるだろうけど、私、ほとんど記憶がなくて。あの新聞記事のこと、あんまり、覚えてなくて」
「ほとんど」も「あんまり」も何も、ほぼ全部、なんだけど。
「ん」
アキラくんはこくりと頷く。
「だから、あんな風になったの、予想外だったっていうか」
アキラくんは、黙って頷いて私を見つめた。
「それで、……、もし良ければなんだけど、またあんな風になっちゃったら、頼っていいかな」
「おう」
アキラくんは、にかりと笑う。
「そもそも頼れ言うてんの、俺やし」
「超落ち着いた。アキラくんセラピー。なんだかワンコ抱っこしてたみたいに」
「ワンコ」
アキラくんはちょっと複雑そうな顔をした。……そりゃそうか、でも、ええと、違うんだ!
「ええと、違って、落ち着いたっていうか癒されたっていうか!?」
「ん、まぁまだまだ言うことやな、要は」
「……なにが?」
「こっちの話やで気にせんで」
ニヤリと笑われた。
「どーんどん頼って来てや、華。1番に思い出してな、俺のこと。イッチバンやでイッチバン」
私はものすごく感動した。なんて友達思いな子なんだろうか……!
「ありがとう!」
思わず手を握ると、さすがにアキラくんはちょっと赤くなった。
色々中学生らしいとこもあるんだな、と少しだけ微笑ましくて笑ってしまう。
まぁ、中学生に頼ってる自分が言えたギリではないんですけれどもね。