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悪役令嬢、揃い踏み

 桜が咲いて、中学三年生になって、桜が満開になった頃。


「つ、付けられてる」

「? どうしたの?」


 この学園ーー青百合学園は、三年間同じクラス。だから、今年もひよりちゃんたちと過ごせる。


(もうすぐ修学旅行だしなぁ)


 高校では海外なこの学校だけど、中学は御多分に洩れずど定番の「京都・奈良」らしい。


(楽しみだなぁ〜)


 なんて、考えて。

 そんなこんなで浮かれていた、ある日の帰り道。ひよりちゃんと一緒だ。曜日によってはひよりちゃんは「とびきりの」ピアノカリキュラムで遅い時間まで学校なんだけれど、そうでない日は大抵いっしょに帰ってる。


(すっかり仲良くなったよなぁ)


 最初は中学生と話が合うのかなって思ってたけど、ひよりちゃんは普通にいい子なので一緒にいて楽しいのです。

 そんな帰り道、私は確かに、後ろをだれかが付いてきているのを感じていた。


(ど、どうしよう)


 だれだろうか? ……まさか、松影ルナ?

 ほかに、特に恨まれる(?)覚えはない。


(……ひよりちゃんを巻き込むわけには、いかない)


 私は意を決し、ひよりちゃんに「ごめん、忘れ物したから学校戻るね」と告げた。


「え、わたしも行こうか?」

「ううん、大丈夫。今日ピアノの先生のとこでしょ?」


 学校のカリキュラムだけじゃなくて、個人的にも通ってるんだからすごいよなぁ……。


「うん、でも」

「だいじょーぶ、大丈夫! また明日ね!」

「そう? じゃあ、また明日ね! 気をつけてね」


 私は手を振り、歩いていくひよりちゃんを見守る。

 角を曲がって、すっかり見えなくなってから、私は振り向いた。


「……誰? 付けてるのは分かってるのよ」


 できるだけ、低い声でそう言う。

 すると、すっ、と人の家の門の影から、女の子が出てきた。

 黒髪のポニーテール、ぱっちりしとしたまつ毛。少し大人しめな雰囲気の、女の子。

 どこかの中学校の制服だろうか、黒いセーラー服を着ていた。


(えと?)


 あ、知ってる子だーーそう思って、一生懸命に思い出す。


(あ)


 私は思い出して、ぽん、と手を打った。


「鍋島千晶、ちゃん?」


 千晶ちゃんは、照れたように微笑んだ。


「ごめんね、急に。……設楽華さん」


 話がある、ということで、私たちは近くの公園のベンチに並んで座った。


「ごめんね、急に。どうしても2人で話したくて」

「どうしたの? 元気だった?」

「うん、おかげさまで……」


 千晶ちゃんは控えめに笑う。


「あのね、設楽さん」

「うん?」


 私は首を傾げた。そういえばさっきも、名前を呼ばれたけれど。


(名前、教えてたっけ?)


 ひよりちゃんに聞いたのだろうか、と、ぼんやり考えていると、千晶ちゃんはさらに口を開いた。


「設楽、華さん、だよね? 合ってる?」

「? うん、設楽華です」

「……"ブルーローズにお願い"の、悪役令嬢、設楽華さん、で……合ってる?」


 私は、口をぽかんと開いた。


(……え? え?)


「あの、初めまして、てのは変か……えっと、改めまして。"サムシングブルーを探して"の悪役令嬢、鍋島千晶です」


(えええええええええ!?)


 私は、思わずベンチを立ち上がった。


「え、えっ、えと、記憶が? ぜ、前世の?」

「うん」


 千晶ちゃんは、こくりと頷いた。


「あるよ」

「ええ……あ、そっかあ……そっかぁ」


 驚きすぎて、言葉が出てこない。


「ごめんね、驚かせちゃって」

「ううん、いいの」


 私は、ゆるゆるとベンチに座りなおす。


「ほんとはあの後、すぐ来ようと思ったんだけど、踏ん切りがなかなか」


 あの後、とは例の塾の件だろう。


「ううん……てか、いつ記憶が?」

「お恥ずかしながら」


 千晶ちゃんは困ったように笑った。


「元カレに振られた時に、ショックのあまり、わたし、死のうとして」

「えっ!?」


(じ、自殺!?)


 私は驚いて千晶ちゃんを見つめてしまった。千晶ちゃんは苦笑して手を振る。


「あ、もう、もちろんそんなこと思ってないよ、大丈夫」

「う、うん」

「前世の記憶が戻ってからね、精神的にもすごく落ち着いたっていうか。大人の記憶があると、なんか違うね、考え方とかも。やっぱり」


 その言葉に、とりあえず、一息つく。


「それで、結局まぁ、未遂とも言えないようなものだったんだけど。それなりに痛い思いして。一泊だけど入院もして」


 千晶ちゃんは、手首をさすった。黒いセーラー服の袖に隠れた、そこ。


「……うん」


 私は、そっと千晶ちゃんの手首から目を離した。


(そんなに、辛かったんだ…….)


「で、その日、思い出して。最初は妄想かと思ったんだけど……、それにしてはリアルで」

「うん」

「で、あの一件。マスクとった華ちゃん見て、髪型こそ違うけど、"ブルーローズの華"だ、って」


(ああ、それで驚いていたのか)


 私はあの時の千晶ちゃんを思い返す。


「でも、わたしが知ってる"ブルーローズの華"とは、性格が、かけ離れてるし。ひよりちゃんにも聞いたけど、やっぱり違うし。となると、転生者かなって」

「おお、その通りです」

「でも、わたしには気づかなかった? サムシングブルーの千晶だ、って」

「えっとね」


 私は頬をかく。


「私、実はブルーローズ以外はプレイしてなくて」

「え、三部作なのに」

「うん、そのね、失恋してヤケになってる時に、せめてゲームの中だけでも愛されよう、って適当に目に付いたゲーム買っただけなの」

「あ、そうなのか……じゃあ、ひよりちゃんも悪役令嬢ってのも知らないんだね?」

「ひゃい!?」


 驚きすぎて、変な声が出た。


「ひひひひひひ、ひよりちゃん!?」


(ひよりちゃんが、悪役令嬢!?)

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