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悪役令嬢、ヘコむ


 ルナはかえってスッキリしたような表情で微笑んだ。


「アタシ、なんか"ブルーローズ"のキャラとは相性悪いのかしら? アキラくんと初めて会った時も」


 ちらり、とルナはアキラくんに目線をやる。


「あの女いて、つい手が出ちゃったし……反省反省」


(あ、また出た。ブルーローズ……)


 "ブルーローズにお願い"は、私、というか、設楽華が悪役令嬢として出てくる乙女ゲームのことだ。

 3部作構成になっていて、ブルーローズは2作目。私自身が前世でプレイしたのはブルーローズのみなので、1作目と3作目に関しては全く知識がない……。


「? 何を言っている?」

「こっちの話。どうせ話しても分かりっこないわよ」

「それは俺が判断することだ。なぜこんなことをした?」

「……さあね」


 樹くんは、ふう、とひとつため息をついた。冷たい目でルナを見遣る。


(樹くん、あんな怖い目できるんだ……)


 ちょっとびっくりしてしまう。

 私には、いつも優しいところしか、見せてこないから。


「……後は塾長室で聞こう。それから、今から読み上げる者はここで待機。順に話を聞く。それ以外は帰宅していい」


 樹くんは、担任の久保と、取り巻き連中であろう男子の名前を呼びあげた。

 それから、樹くんの背後にいたスーツの大人のうち、女の人がルナの背中に手を置いて歩くのを促す。

 ルナはしぶしぶ、という感じでそれに従い、教室を出て行こうとしてーーぴたり、と止まった。

 そして、なぜか、笑った。


(!?)


 背中が、ぞくりとする。

 ルナはにっこりと笑ったまま、ひよりちゃんに視線を向ける。


「大友さん、……"また"ね」


 そう言って、今度こそ、教室から出て行った。


(なんで?)


 ひよりちゃんを見ると、怯えた表情で固まっていた。

 それから樹くんも(ちらりと私に微笑んでから)退出し、教室は一瞬静寂に包まれた。


(……私、何もしてなくない?)


 情けないことに、私は今回、1人でぷんすかしていただけで、一切何もしてないのだ。

 気がつけば終わっていた。


(アキラくんと、樹くんが解決してくれちゃった……情けない)


 私は唇をかんだ。


(私は……大人なのに)


 悔しくて、手を痛いほどぎゅうっと握りしめた。

 そのとき、レンズ越しに、ひよりちゃんの元カレが、ひよりちゃんを見ながらソワソワしているのがみえた。

 ちょっと、ピンと来る。


(無駄に歳食った、私ができることってこれくらいよね)


 私は眼鏡とマスクを外し、立ち上がった。

 隣で、千晶ちゃんが息を飲んで私を見上げるーー、……なんで?


(? 何を驚いているんだろ?)


 まぁとりあえず、これだけは伝えなくては。


「ひよりちゃん」

「なぁに?」


 ひよりちゃんは、まだ少し呆然とした表情で、私を見上げる。千晶ちゃんも、私を見つめていた。


「ムダに悲しい経験が多い私から、ひとこと。クソ男って、別れてるのに"元カノはずっと俺のことが好き"っていう謎の幻想を抱いて生きているから、気をつけてね」


 それだけを言い、とりあえずアキラくんのところへ向かう。


「お疲れ」

「私、何もしてないよ……アキラくんこそ、お疲れさま」


 私は軽く首を振りながら、振り向いてひよりちゃんの方を見た。

 ひよりちゃんが、元カレと話している。

 元カレくんは、何か必死に言い訳をしているようだが、これこそムダだろう、と思う。

 案の定、ひよりちゃんは立ち上がって、元カレをにらみーーそして、乾いた音が教室に響いた。


「お、景気ええな!」


 アキラくんがカラカラと笑った。

 平手打ち。

 元カレくんは信じられない、という目でひよりちゃんを見ている。


(バカなの? ねぇ、バカなの?)


 私はあまりに彼が哀れすぎて、かえって心配になってさえいる。

 まだ中学生、ということを差し引いても……。やっていいこと、わるいこと、信じるべき人くらいは分かっていなくてはならない、と思う。


(まー、大人になっても分かってないアホもいーっぱいいたけど?)


 前世の記憶が走馬灯のように……うう、忘れたい。

 しかし、元カレくん含めて、彼らには高い勉強代になっただろうと思う。今後はまともに……なるよね? なっておくれ。お姉さんからのお願いだよ。

 そして、平手打ちをかましたひよりちゃんは、わたしを見てーー笑った。


(あ、良かった)


 あの笑顔は、本気で吹っ切れた後の笑顔だ。


(ザマミロ、よね)


 大人気ないけど、元カレくんにべぇっと舌を出した。

 アキラくんに笑われる。

 ちょっと拗ねて口を尖らせてにらむと、アキラくんは意外そうな顔をして、なぜか口を押さえて、首を傾げた。


「なに?」

「ん? いや、なんでも……つうか、鹿王院樹。華は言うてないんやんな? なんで来たんやろ」

「言ってないよー」

「せやったらなんでここに」


 私は「うーん」と首を傾げた。


(だって、私にもなんで樹くんが来たのか分からないし)


 この塾が樹くんの関係先、だってこともさっき知ったくらいなのだ。

 後で、とのことだったから、まぁあとできっちり説明してくれるんだと思う。

 不思議そうに見てくるアキラくんとひよりちゃんに、私は笑いかけて「帰ろっか!」とことさらに、大きな声で言った。

 とりあえず、もう、今日できることはーー帰ってご飯たべて、お風呂に入って眠ることだよ。

 今日はみんな、頑張りました。……私以外はね。うう、情けなや。

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