悪役令嬢は突きつけられる
「雪だねー」
「積もってきてんな」
銀色の空からは、白い雪がふわふわと散り落ちる。
昼休み、図書室の帰りにたまたま会ったアキラくんと私は校舎の影でほんの少しだけお喋りしていた。
とくに内容のない、他愛無い世間話。
(それが嬉しかったりする)
私を見るアキラくんの目は優しくて、好きって言われてるみたいで、私は苦しいくらいに申し訳なくなる。
(こんな風じゃダメだ)
ちゃんと突き放して、なんならアキラくんが私のこと嫌いになったりするように、すべきなのに。
(できない)
怖い。苦しい。いやだ。
他の女の子といるのを想像するだけで、心臓が止まりそうになる。
(私はずるい)
ずるくて嫌な、いやしい人間だ、ってことを実感する。
それでも突き放せない。そばにいて欲しい。
好きでいて欲しい。
(なんて、なんて自分勝手)
そんな私に、今日もアキラくんは優しい。
「雪だるま作りたいわ」
アキラくんは楽しげに言う。まだそんなには積もっていないと思うけれど。
「こんな薄着で? 風邪、引いちゃうよ」
というか、寒い。私は膝掛け代わりに持ってたストールを巻いてるから、まだマシだけれど。
「せやなぁ。あ、バスケせえへん?」
「へ?」
「身体あったまるで?」
ボール持ってくるから1on1、なんて恐ろしい提案をされて、私は軽く悲鳴を上げる。
「に、肉離れになるよっ」
「ならへんよ」
アキラくんが楽しげに肩を揺らすーーと、悲鳴のような声があたりに響いた。
「し、設楽華っ!」
びっくりしてアキラくんにくっついてしまいながら、その声の方を見やる。
(ーー石宮さん?)
同じクラスの転校生。「前世の記憶」があるっぽい女の子。
アキラくんは眉をひそめて、私を庇うように一歩前へ出た。
「は、離れて。山ノ内君から」
石宮さんは、両手を握りしめ、必死の形相だ。
その瞳には(なんていうか、かえって恐ろしいことに)悪意なんか見当たらなくて、本気でアキラくんを心配している色が浮かんでいた。
「……は? なんやねん、俺、アンタ見たん初めてやけど」
なんで名前知ってんの、とアキラくんは言う。
「つうか、なんや指図される覚えはないねんけど?」
「そ、その子は悪役令嬢なんだよっ!?」
「はぁ?」
アキラくんは呆れた声で返す。
「なんやって?」
「悪役令嬢! 悪いんです! 悪なんです!」
涙目になりながら、石宮さんは訴える。
「何を言うとるか訳分からんわ」
「わ、分かってもらえないならっ」
石宮さんはきゅっ、と唇を噛み締めた。
「証拠を示すまでっ」
「証拠ぉ?」
アキラくんがそう言って、私はぱちくり、と石宮さんを見つめた。
(証拠、……って、なにの?)
首をひねる私に、石宮さんは言い放つ。
「こ、ここであなたを断罪しますっ、設楽華っ! もちろん、その悪の、罪の、氷山の一角であろうとは思うのですがっ」
氷山の一角って、……私、どんだけ悪人なの?
(まぁ確かに、悪役令嬢的なことはしたけど)
東城さんグループに釘刺し。
少し乾いた笑みが出てしまう。そんな私をキッと睨みつけ、石宮さんはびしりと人差し指を私に突きつけた。
「ま、松影ルナちゃんを殺したのはあなたね?」