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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】山ノ内瑛
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悪役令嬢と友情

ふたりで見つからないようにくっつきながら、その話を聞く。


「東城さん、やりすぎだよね?」

「ねぇ……えぐい。あんなこと、お嬢様でも考えつくんだね」


 ド庶民なわたし達でもしないよね、と二人は話す。


「大友さんも怖いのに目ぇつけられたよね」

「よりにもよって、あの東城さんだよ」

「強いよねー……」


 私は、その会話に出てきた「大友」に目を見開いた。


(ひよりちゃん!?)


 今にも飛び出したいのをぐっと抑えて、2人の話に聞き耳をたてる。


「どーすんの。行く? 倉庫」

「あー、どうしよ。行かないとさあ、部活で東城さんにガチギレされそうだけど、……大友さんカワイソすぎて」


 それがはっきり聞き取れた最後の言葉で、そのまま2人はぶらぶらと歩いて行ってしまう。


「……華?」


 私が青い顔をしているのにきがついたのか、アキラくんは心配そうに私の顔をのぞきこむ。


「ひよりちゃんが……!」

「ひよりて、ひよりサン? どないしたん」

「そう」


 私は頷いて、夏休み中、登校日にひよりちゃんが少しトラブルっぽくなってたことを話す。


「なにか、酷いことが起きてるみたい」

「……やな。倉庫、言うてたな」

「裏門とこのじゃないよね、人が何人も入れる大きさじゃないし」

「体育倉庫やろか」


 運動場のすみっこの、とアキラくんは呟く。


「体育館のじゃなくて?」

「体育館は昼休み、開放されてるから人目があるんや」


 その言葉を聞くやいなや、私は走り出す。


「アキラくんは帰ってて?」


 巻き込むのは申し訳ない、と眉を下げた。


「なんや華、俺のこと巻き込んでくれへんの?」


 私に簡単に追いついたアキラくんは笑う。


「巻き込まれたほうが俺は幸せや、っつーか」


 アキラくんの目が、少し真剣みを帯びる。


「なんや、危なそうなとこに自分が好きなオンナ、ひとりで行かせるかいな」


 こんな時なのに、私の胸はぎゅうっとなる。目が熱くて、ないちゃいそうだった。


(ごめん)


 心の中で、何度も謝った。

 校庭の隅にある体育倉庫にたどり着くと、かすかに人の声が聞こえる。何人かの人の笑い声。小さく聞こえる「やめて」というひよりちゃんの声。

 顔色が変わった私の顔を見て、アキラくんは言う。


「間違いなさそうやな?」


 鉄製の扉に手をかけた。内鍵はそもそもないので、簡単に開くかと思いきや、なにか突っかえ棒のようなものがしてあるのか、全く動かない。

 扉をガンガン、と叩く。


「ひよりちゃん! いるの!?」


 しん、とする倉庫。


(どこか、どこか、入れる場所を)


 きょろきょろ、としているとゴトリ、と音がしたあとガラガラと扉が開く。


「ひよりちゃんっ」


 そう叫んだ私を、扉近くにいた男子が引きずり込んだ。


「華っ」


 すぐにアキラくんも倉庫に私を追ってくれるけど、私は振り向いて(しまった!)と思う。別の女子に、すぐに扉が閉められてしまった。


「離せや!」


 アキラくんが私の腕を掴む男子から、私を引き離す。

 男子は「おーこわ、関西弁じゃん」と少し笑って、一歩後ろに下がった。

 アキラくんにお礼を言って離れつつ、私はソイツらを睨みつける。

 女子3人に、男子2人。

 ひよりちゃんは、正座して前屈した状態で、女子2人に頭と背中を押さえつけられている。1人の男子はスマホ片手にその様子を撮っていたようで、女子のもうひとりは、扉の方からニヤニヤ笑いながらこちらに歩いて来ていた。


「は、華ちゃん」


 ひよりちゃんが、必死にこちらを見る。


「と、東城さん、華ちゃんは関係ないよ」

「知りませんわ、あちらからいらっしゃったのよ? ……まさか、設楽様?」


 東城さんは私に気がついて、軽く眉をしかめる。

 ひよりちゃんを押さえつけている2人の女子のうち1人が、私を睨んだ。


(……ていうか!)


 その横で、スマホ片手にニヤついている男子には見覚えがある。


(……体育でからかってきた人)


 よりにもよって、な組み合わせ。


「女子は設楽さんだろ、鹿王院の許婚」


 その男子がそう言うと、少しざわつく。


「まずいんじゃ」

「でも」


 ヒソヒソと言い合うのを無視して、私は叫んだ。


「ひよりちゃんを離して! 何してるの!?」

「何って、……ふざけてただけですわ。ねぇ?」


 東城さんは笑いながらひよりちゃんを立たせる。


「ねー、ひよりさぁん?」


 ひよりちゃんは、びくりと肩を揺らした。


「……お前ら、女子1人にこないなことして、恥ずかしくないんか」


 アキラくんがイラついた声で言う。


「汚い真似すなや」

「関西弁、こわっ」

「こいつ知ってる、スポ薦のバスケの」

「あー」

 

 ケタケタ、と男子たちは笑う。

 それから、ふと低い声になってアキラくんを睨みあげた。


「……つか、なんで一緒にいるわけ?」


 設楽さんと、と交互に指差される。


「……なんでもええやろ? 関係ないやんけ。つか、謝れや、その子に」

「だーかーら、ふざけてただけだって。友達と。な」


 笑いながら男子は、ひよりちゃんの腕をとった。


「なー?」

「……うん」

「ほら」


 くすくすと笑い、勝ち誇る東城さんを無視して、私は言う。


「ひよりちゃん、絶対守るから一緒に行こう」


 手を差し出す。ひよりちゃんはウロウロと目線を動かした。


「守る!」


 あははは、と東城さんは笑った。


「正義の味方気取りですの?」

「気取りでも何でもええやんか、お前らよりは少なくとも正義寄りなんは確かなんやから」


 アキラくんは東城さんを睨む。


「ですから、関係ないことですわよね? あなたがたには」

「関係あるよ」


 私は言う。


「友達だもん」


 ひよりちゃんは目を見開く。その目から、ぽろりと涙がこぼれた。


「友達! 友達ですって」


 東城さんは嘲るように笑って、それからひよりちゃんから手を離した。そして明らかにバカにした口調で言う。


「感動的で涙が止まりませんわ」

「つーかさ。コイツ、返せばいーんだろ? ほら!」


 横にいた男子が、どん、とひよりちゃんを押した。


「、あ」


 ふらり、とひよりちゃんは傾いで、倒れかかった。その先には、ハードル競争のハードルが並べてある。


(ぶつかる!)


 私はひよりちゃんを支えようと手を伸ばしたけれど、支えきれずにひよりちゃんを抱きしめる形でそれに突っ込む。

 がたあん、と大きな音ともに後頭部から背中にかけて痛みが走った。


「華っ!」


 アキラくんが大きく私の名前を呼んで、走り寄ってくる。


「大丈夫か」


 私たちは、優しく抱き起こされる。


「う、うん、ひよりちゃんは」

「わたしは大丈夫、ごめん、華ちゃん、ごめん」


 綺麗な目からは、相変わらずポロポロと涙が。怪我はないみたいだ。

 ふ、と安心する。

 と同時に、足に痛みが走った。


「……っ、た」

「華」


 アキラくんの顔色が変わる。どうやら足首をひねったみたいで、立てそうにない。


「あっは、勝手に突っ込んで勝手に怪我して。お美しい友情でございますわね?」


 私たちを見て、東城さんは笑う。アキラくんが睨むと、私を引きずり込んだ男子が嘲るように言った。


「でも大友怪我してないじゃん、良かったな。設楽、胸にエアバッグみたいなのつけてるもんな」


 その一言に、もう1人の男子、体育で私をからかった男子も、ケタケタと笑い出す。


「ほんとそれ! やっぱさ、そのでけーのでさ、俺の挟んで」


 がん! と大きな音がした。アキラくんが近くの壁を強く蹴り上げた音だった。


「その口しばらく閉じとけや」


 低い声でアキラくんは続ける。


「耳障りなんやクソタボ共が」

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