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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】山ノ内瑛
155/161

悪役令嬢は眠る【side充希】

「どないしたんや暗いな」

「暗ないわ元気やわ」


 朝からやたらとはしゃいで見せるウチのオトートが痛々しい。華ちゃんは凹んどるし。なんかあったんやろか?

 出勤のとき、部活に行く(夏休みやのに大変やのう)瑛と家出るんが被って、しゃあなしやでとエレベーターの中でそう尋ねた。


「ケンカしたん?」

「してへんわ」

「じゃあどうしたんや」


 言うたらラクになるかもやで? ん? と迫ると、瑛は抵抗してもムダと悟ったのか渋々口を開いた。


「……振られた」

「? 誰に」

「華以外におるんか」

「へ?」


 ぽかんとしたあたしを見て、瑛は変な顔をした。


(え、だって。華ちゃんも瑛のこと好きや言うてたよな?)


 あれ、夢?

 華ちゃん泣き疲れて寝てもうて……。夢ちゃうよな。


「なんやその顔」

「え、だって、華ちゃんも瑛のこと」

「……も、なんや」

「えーとー」


 言ったらあかんよな?


(あー、許婚がどうのか)


 それで断ったんか。形だけとかちゃうんやな。なんやろなぁ、せつないなぁ。


(せやけど赤の他人がクビ突っ込んでええ話ちゃうし)


 んー、と首を傾げてる間に、瑛は何かしら悟ったようやった。


「……それでか」

「んー、なんていうか、きみらはアレやな、苦労するなぁ」

「こんなん苦労に入らへん」


 ぱちん、と瑛は両手で頬を叩く。


「なんか考えるわ」

「ふーん?」

「こんなんで離れんの、イヤや」

「付きおうてもないくせに」

「せやけど両思いなんや」

「まぁな、そうみたいやな」


 そこは認めてあげる。特別に。


「よっしゃ! なんか生きるパワーが湧いてきたわ!」

「なくなってたんかい」

「なくなるわんなもん」


 瑛はケタケタ笑う。と同時に、エレベーターのドアががあっと開いた。


「とりあえず部活頑張るわ」

「部活なんかい」

「せや」


 瑛は楽しげに言う。


「俺アメリカの大学行くわ」

「ほーん?」


 バスケで? と駅までの通路を歩きながら聞くと頷いた。


「ほんでな、華連れてくわ」

「駆け落ちやんけ」

「? あー、そうやな」


 瑛は笑う。


「駆け落ちたるわ」

「あーそー」


 華ちゃんがそれを受け入れるかどうかはともかく、瑛が前向きなんはヨシということにしよう。

 まだ何年もあるんやし、その間に状況は変わるのかもしれん……。

 ところで華ちゃんは今日は塾もなくて、家にいてくれるらしい。


(かーさん喜ぶやろなぁ)


 凹んどる華ちゃんも少しは元気出してくれるとええねんけど。


 そんな訳で、夕方、仕事終わりにあたしは有名スイーツ片手に帰宅してた。


「ただいまぁ」

「あ、おかえりなさい」


 キッチンで楽しげにかあさんと料理してる華ちゃんは、すっかり明るい声で笑った。


(元気そーやな?)


 かあさんとチラリと目が合う。微笑まれた。おお、さすが5人子供育ててきただけあるなぁ。


「華ちゃんほらシュークリーム」

「わ、ここの美味しいやつ」


 華ちゃんは小躍りして喜んでくれた。うう、可愛いなぁ。

 そのあとはとーさん以外がぱらぱら帰宅してきて、今日の夕食は煮物に焼き魚。

 瑛と華ちゃんはまだ少しよそよそしい感じするけど、まぁ、なんとかなるやろ。


「今晩もお世話になります」

「ずうっとおってくれてええんやで?」


 あたしがそう言うと、華ちゃんは「いやぁ」と困ったように笑う。


「せやで」


 瑛が言った。


「帰らんでずっとおったらええねん」

「……あは」


 いつも通りっぽい瑛に、安心したように華ちゃんは笑った。

 今日も華ちゃんはあたしの部屋に布団をしいて寝てもらう。


「華ちゃん帰ってまうの、寂しいわ」

「ありがとうございました、楽しかったです」


 ふふ、と薄暗い部屋で華ちゃんは布団に包まりながら言う。


「なんか、前の家みたいで」

「前?」


 聞き返しながら思い出す。前のとーさんの言葉。「被害者の娘さん」……ってことはお母さん亡くなってはんのやな。


(おばーちゃんと2人やいうてたっけ?)


 あと親戚の子がおるとか。


「久々に、おかあさんと過ごした気持ちになりました」


 ぽつり、と華ちゃんは言う。


「華ちゃん」


 思わず呼んだけれど、帰ってきたのはすうすうという可愛らしい寝息だけ。

 あたしはそっと華ちゃんのおでこを撫でた。


「おやすみ」

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