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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】山ノ内瑛
153/161

悪役令嬢は夢を見る

 恋なんか、もうまっぴらだと思っていたのに。

 好き、と言われたら好きになっちゃう残念な性格のせいで、私は前世で散々な目にあってきた。


(だから、もう、恋愛にうつつを抜かすなんてしないで)


 そう思っていた。

 悪役令嬢お約束の「破滅」だって回避して、とにかく穏やかに、波風立てず、安定的に生きていけたらいいなって、そんなふうに。


(なのに)


 ぎゅう、と胸が痛い。

 私は充希さんの部屋に布団を敷かせてもらっていて、その布団の中で胸を抑える。

 充希さんは隣のベッドで、すうすうと寝息を立てていた。

 押さえているどきどきと心臓が、変な動きをしてるような気さえする。


(なんでだろう、なんで?)


 なんで、アキラくんに。


(華「も」好き、って言われたから?)


 も、ってことは。

 アキラくん「も」ってこと、で。


(……違う)


 私は自分の考えを否定した。もっと、もっと前から、私はアキラくんに恋してた。

 多分、……病院で入院してた、あのとき、もうすでに。


(気がつかなかった)


 ううん、気づかないようしてた。

 自分が(中身の年齢と比べて)ものすごく年下の男の子に恋なんかするわけない、って。

 そんなふうに。

 自然と目頭が熱くなる。


(やだな)


 泣きたくなんか、ないのに。

 でも我慢しようとすればするほど、涙は溢れてきてしまって。

 思わずしゃくり上げたとき、そっと背中に触れる手があった。


「どないしたん華ちゃん?」


 充希さんの優しい声。


「なんかあった?」

「み、つき、さん」


 私は涙の間から、なんとか声を出した。


「どっか痛い?」


 心配げな声に、私はブンブンと首を振る。


「ち、違って」


 私はぽろりと言葉を漏らす。

 充希さんはさすが長女、みたいな頼れる雰囲気があって(アキラくんと13歳差ということは、前世の年齢的にはほぼ同世代なんだけれど)つい言葉を紡いでしまう。


「私、たぶん、……アキラくんのこと好きで」

「えっほんまに!?」


 充希さんは嬉しげな声を出してくれる。


「わー、めっちゃ嬉しいわ、いやあのな、あのー、まぁそのうち本人が」


 私はまた首を振って、充希さんの言葉を遮る。


「私、恋しちゃいけないんです」

「ん?」

「恋なんか、したら、いけないんです」


 だって私には、許婚がいるんだから。

 許婚の話が出たばかりのとき、樹くんとこんな話をしていた。


「他に好きな人ができたら考えよう」


 だから私は、樹くんとの婚約はそんな感じの、なんならフランクなものだと思っていて……思い、こんでいて。


(でも、違うんだ)


 だって、そんな簡単に破棄できる婚約からば、「ゲーム」において樹くんに蛇蝎の如く嫌われていた「悪役令嬢・華」はとっくの昔に婚約破棄されていたはずだから、だ。


(できてなかったってことは)


 当人である私たちが考えるより、もっとずっと「常盤」と「鹿王院」の関係性において、私たちの婚約は必要不可欠なものなはず。


(だから)


 私はまた涙が溢れてくるのを止められない。


「私は、恋なんかしたら、いけないんです……」


 樹くんも、同じ立場なのに。私だけが、こんな悲劇のヒロインみたいな気持ちになっちゃいけないのに。

 樹くんも、いま苦しんでるかもしれないのに……。

 そんな話を、かいつまんで(もちろんゲームだの前世だのは伏せて)充希さんに話す。


「そんなこと、あるんや」


 優しく私を撫でる充希さんの手。


「華ちゃん」


 穏やかに、充希さんは続けてくれた。


「恋したらあかんなんて言うけどな、華ちゃんくらいの年齢の子は多かれ少なかれ恋するもんや。止めたりなんか、できひん」


 薄暗い中、充希さんにしがみついて泣きながら、頷く。


「苦しいやろうけど、でも」


 充希さんはやわやわと私の頭を撫でた。


「アキラなら、なんとかするような気がしてんねん」


 その声を聞きながら、私はゆっくりと目を閉じる。泣き疲れていたのか、私はすうっと引き込まれるように眠っていた。


 夢は、見なかった。

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