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悪役令嬢は羊羹がお好き

「友達……そうか」

 鹿王院くんは少し寂しそうに反駁した。


(え、あ、もしかして鹿王院くん友達じゃないとか言われたと思ってる!?)


 それは誤解だ。曲がりなりにも友達になれたとちょっと思っているーーと言おうとして、その前に口をひらかれた。


「そうだな。俺は友達ではなく許婚だし」


 私はぽかんと口を開いた。


(そっち!?)


 勝手に鹿王院くんは納得したように頷いた。


「そろそろ行こう。茶受けに祖母が羊羹を買ってきている。なかなか美味いぞ」


 くるりと踵を返し歩き出そうとする鹿王院くんのシャツの裾を、慌ててぎゅっと握った。


「……なんだ?」


 不思議そうに首をかしげる鹿王院くん。しかし、耳の先がほのかに赤い。


(あ、怒って……はないかな? どうだろう)


 とりあえずシャツを離し「ねえ、鹿王院くんのお祖母様にお会いする前に、聞きたいことがあるの」と言った。


 念のために、羊羹のことではない。気になるけども。好きだけれども。


(普通のいわゆる羊羹なの? それとも抹茶入りなの? 私は栗入りが好きなんだけど? って、違う)


「なんだ?」

「ねぇ、本当にいいの? 許婚なんて」

「……俺は、……構わない」

「そんな風に決めて大丈夫? だって、これから好きな人とか、できたり、とか」


(てか出来るのよ鹿王院くん! ヒロインちゃんが! 高校2年になったら入学してくるのよ!?)


 ちなみに鹿王院くんは先輩枠だったりする。


「……華は、嫌だろうか。俺と婚約するのは」


(……!? 何その悲しそうな目! 子犬のような!)


 鹿王院くんの方がよほど背が高いのに、まるで幼子を相手にしているような気分になった。


(いや、そりゃアラサー的精神年齢としてはそうなんだけど……)


 そんな風に言われたら断りづらいではないか……。


「でも、鹿王院くん、好きな人、出来るかもよ?」

「……華にできるのではなく?」

「んっ? ああ私? それは……あんまり考えてなかったや」

「そうか」


 なぜかホッとしたように微笑むと「その時はまた考える」とぽつりと言った。


「まぁ大丈夫だ」

「大丈夫なの?」

「そうだ」


 まっすぐな目で私を見てくる鹿王院くん。


(うーん、まぁその時は考える、という言質も頂いたし)


 私は首を傾げた。


(まぁ、またヒロインちゃんなり、好きな人なり現れてから考えたら、いいの、かな)


 そのまっすぐな瞳に気圧されるように「う、ん」と頷く。



「……それから」


 鹿王院くんは少し迷うように呟いた。


「できれば、下の名前で呼んで欲しい。いつき、と」

「え? あ、うん。樹、くん?」


 私がそう言うと、鹿王院……じゃない、樹くんはさっと私の手を握って歩き出した。


「え、あの、樹くん?」

「……お茶が冷めるぞ」

「あ、ほんと? ご、ごめんね」


 その成長過程の背中を眺めていると、やはり耳が赤い気がした。


(あれ、熱? でも体調悪くはなさそうだけど)


 考えている間に、広間に到着。


「あらやだほんと華、はぐれないでよ」

「ごめんなさい敦子さん、でも早足すぎでした」

「まぁでも、王子様にお出迎えしてもらえて良かったじゃない?」


 にっこり、とウインクを送ってくる敦子さん。王子様て。相変わらず超ポジティブだ。


「こんにちは華ちゃん、顔色良さそうね」

「あ、ろく…….じゃない、樹くんのお祖母様、お邪魔してます、すみません、いきなり迷って」

「いいのいいの、分かりにくいでしょ。でもまぁ将来は住むのだから、じきに覚えるでしょう」


 うふふ、と上品に微笑むお祖母様。


(やっぱ結婚前提なのか……お金持ちって良く分かんない)


 とりあえず曖昧に微笑んでみる。


「じゃあ2人はそっちの机でお勉強なさい。私たちは今からアナタたちの婚約披露会の話し合いをしてますから」

「……披露会!?」


(な、なにそれっ? 気が早くない!?)


 驚く私を見て、敦子さんは笑って「ウチは親戚少ないけど、鹿王院さんは多いからね。きちんとご挨拶しておかないと」とちょっとズレた返答をしてきた。


 なんと言えば良いのか分からずアワアワしていると樹くんに「華、こっちだ。数学からしよう」と言われる。

 見ると、すでにテキストが用意してあった。ノートなども新しいものが並んでいる。


(もうこうなったらなるようにな~~れ、だわ)


 一つ諦めのため息をついて、私は大人しく数学のテキストを開く……フリをして、まずはやはり羊羹にかぶりつくのたった。

がぶり。


(あら、栗入りでした。ラッキー)

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