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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】山ノ内瑛
139/161

悪役令嬢、萌え袖になる


「ご、ごめんこんな言い方されたらやだよね!? ごめん、……気持ち悪いよね」

「や、別に……気にならへん」

「そう、なの?」


 私はふと落ち着いた。よく考えたら男子と女子じゃその辺違うのかな。


「気にならへん、いうかなー。つかなー、うん、華ならええいうか」


 少ししどろもどろになるアキラくん。


(友達だから?)


 友達なら別に気にならないってこと?


(うーん、私ならどうかな)


 裸、ってわけじゃなくても、例えば薄着でいて、異性の友達ーーアキラくんでも、樹くんでも、私は目線を気にするかな?


(あ、しないな)


 気にならない、と思う。というか、気にしてない。多分2人とも、その辺の線を引くのが上手なのかもしれないけど、体育の時私を噂してる男子みたいな、不躾な視線を2人から感じたことはない。

 首をかしげる。


「私の視線は、不躾な視線ではない?」


 単刀直入に聞いてみた。


「ブシツケ?」

「うん」

「違うと思う」

「違わないとしたら?」

「別にええ、華なら」

「……心広すぎない?」

「クッソ狭いでー? 俺の心」

「嘘だあ」


 私は笑って、とりあえず赤い顔を落ち着かせるために顔でも洗おう、と水道を捻る。


「あ、華」

「え」


 私はやっぱり動転していたんだろう、捻ったのはアキラくんが浴びてた、蛇口が上向きにされてた水道で、それも思いっきり捻っちゃって。


「ひゃぁああ」

「何しよるん!」


 アキラくんが慌てて止めてくれるけど、私もすっかりべしょべしょだ。頭から水をかぶってしまった。


「……あは」

「ほんっまに華て、華やんな?」


 私が笑って、アキラくんも楽しそうに笑う。

 それからため息をつくように「保健室行こか」と言った。


「タオルくらいあるやろ。風邪引くで」


 自分だけだったら自然乾燥させる気だったくせに、私はだめらしい。

 近くの渡り廊下から、直接校舎にはいる。靴はそんなに濡れていなかった。


「誰もいないねー……」

「勝手に借りよか」


 誰もいない保健室。よく考えたら当たり前で、先生は救護テントだし、皆もそっちに行く。

 アキラくんは勝手に棚を開けてバスタオルを見つけ、私の頭からバサリとかけた。自分のぶんも取って身体を拭いている。


「乾くまでそうしとき」

「うん……あ」


 私はアキラくんに消毒液を示す。


「消毒だけでもしとく?」

「……しみそーやなぁ」


 ちょっと笑って、アキラくんは頷いた。

 黒いベンチに座ってもらって、改めて背中を見る。痛そう。


「かすり傷やろ」

「擦過傷だよ」

「痛そうな言い方に言い換えんの、やめてや」


 なんか痛く感じるやんか! と笑うアキラくんの背中に、脱脂綿に含ませた消毒液をぽんぽん、とつけていく。滲んだ血も脱脂綿に着く。


「うわぁ沁みる? しみるよね痛いよね」

「や、案外大丈夫で?」

「あ、肘とかも消毒しとこ」


 脱脂綿を変えつつ、とにかく傷という傷に消毒液をぽんぽんしまくった。


(うん、とりあえず良いのではないでしょうか)


 私は頷いて、アキラくんに「終わったよ」と笑いかける。


「サンキュ」

「戻ろっか」

「んー」


 アキラくんは立ち上がり、私のバスタオルをもう一度しっかり肩から掛け直した。


「?」


 立ち上がりながら、首を傾げる。


「俺の心狭いて、言うたやん?」

「広いと思うけど」

「狭いで」


 小さく小さく、アキラくんは息を吐く。


「こんな華、他のやつにぜってー見せたくない」

「こんな?」


 言われて、ふと保健室の大きな鏡に映る自分に目をやる。

 髪の毛はボサボサだし、ジャージは濡れてしっとりと肌に張り付いている。肩からバスタオルかけてるから、体の線は隠れてるけど。


(うわぁ)


 雨に濡れた、毛並みの悪い猫みたいだ……。


「あは、みっともないよねぇ」

「ちゃう」


 アキラくんは片手で、頬をぎゅうと掴んだ。ひょっとこ顔になって、余計変な感じだ。


「ひゃ、ひゃめてよう」

「あっは、変な顔」

「もう!」


 アキラくんが楽しそうにするので、わたしも笑って彼を見上げる。


「……ん?」


 アキラくんはその手を頬に移動させて、目を細めた。……「切ない」、まるで、そんな表情で。私はどきりとして少し息を飲んでから、首を傾げた。


「どうしたの?」

「あんな……華、俺」


 苦しいような表情。

 私は思わず息を止めてーー。

 その時、少し先から足音が聞こえた。廊下を歩く音。アキラくんはすっと私から離れて、私は少し胸が痛む。なんで?

 私の手はアキラくんの指に触れようとして、出来なかった。

 がらり、と開いた先にいたのは保健の先生。


「あら?」

「先生、俺こけてもーてん」

「こけたっていうか」


 先生は、笑った。


「かっこよかったよー!」

「ほんま? あざーす」


 嬉しそうに言うアキラくんに、私の心が少し波打つ。私、ちゃんといえてない。


(かっこよかった、って)


 あんなにかっこよかった、のに。


「……先生、山ノ内くん、診てあげてください。一応消毒はしたんだけど」

「十分だと思うけれど、いちおうねー」

「お願いします。じゃ、私戻るね」

「と、いうか。設楽さん、なにがあったの?」


 不思議そうに言われた。


「びしょ濡れだけど」

「あ、あはは」


 思わず苦笑い。


「着替えあるわよ、着替えていきなさい」

「や。だいじょぶそうです、あ、タオル借りてます」

「それはいいけど」


 先生は少し心配そう。


「風邪引くわよ、着替えなさい」

「借りといたらええやん、華」

「あなたもね、山ノ内くん」


 先生は呆れたように突っ込んだ。

 私は少し首を傾げてから、頷く。たしかにちょっと寒いしね。

 私たちはそれぞれベッドのカーテンをしめて、服を着替える。アキラくんはハーフパンツだけだけど。

 カーテンの向こう側から、もう着替え終わったアキラくんと、小西先生の会話が聞こえた。


「擦過傷ね」

「痛い言い方に変えるん、流行ってるんすか」


 私はふふ、と少し笑う。擦過傷って痛い感じがするよね。

 しゃあっ、とカーテンを開けて「先生、ありがとうございました」とお礼を言う。ビニール袋に、濡れたジャージを入れさせてもらった。


「あら。ちょっと大きかったわね?」

「あ、大丈夫です」


 お借りしたジャージは大きめので、袖がかなり余る。アキラくんは変な顔をしていた。似合わないかな。

 そんなことを考えていると、先生は「山ノ内くんごめんなさい、これ運ぶの手伝ってくれる?」と言った。


「この辺の消毒セット、救護テントまで」

「いいッスよ」

「設楽さんは戻ってて大丈夫よ」

「はぁい」


 もう一度お礼を言って保健室を出て、ぱたぱたと廊下を走って戻る。

 さっきアキラくんと話した水道の前を通り過ぎようとして、さっきのアキラくんのあの表情を思い出してしまう。

 切ない、ような。あの顔を。


(どうしよ、多分顔、赤い)


 だってアキラくんがあんな顔するんだもん。なんだったんだろ。多分、べしょべしょになった私を心配してくれてのことだけど……だよね?


(あー、ダメダメだ、私、大人なのに!)


 ぱちん、と両頬を叩いて気合を入れ直す。グラウンドにむけて、私は大きく足を踏み出した。

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