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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】山ノ内瑛
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悪役令嬢、赤面する

 掲げられた白いハチマキに、またも、応援席から大きな歓声。

 私も拍手して、隣に座ってたひよりちゃんとハイタッチをした……けど。


「わ」

「うわ、痛そ」


 応援席にざわめきが広がる。

 アキラくんの背中は、すっかり血だらけで。かすり傷だろうと思うけど、相当痛そうだ。


「……アキラくん」


 私は呆然と呟く。


(私と約束したから)


 かっこいいとこ見せる、大将首とってくるーー、約束。

 ……無理をさせたのかもしれない。


(中学生に、あんな、けがを)


 なんだか責任を感じて、ぎゅう、とジャージの胸を掴む。


「華ちゃん、行ってあげたら」


 ひよりちゃんがポツリと言った。


「あ。え?」

「ちゃんとカッコよかったよね、山ノ内くん。いってあげなよ、ついでに水で洗うの手伝ってあげたら? 背中だし」

「え、でも」

「華ちゃんが行ったら、喜ぶと思うよ」


 楽しげに、微笑まれた。


(? たしかに仲はいいけど……あ)


 かっこいいとこ見せる、って言ってたの、聞いてたのかな。


(だね。せめて責任は取らねば)


 私は頷いて、応援席を飛び出した。竜胆寺さんが、少しだけ何か言いたそうな顔をして私を見ていたけれどーーでも、ケガだし。心配、だし。

 しばらく探し回って、私は校舎裏の水道で、アキラくんを発見した。


「よ、華」

「よう、じゃないよー! 背中っ」

「いや、俺見られへんからさぁ、痛いのは痛いねんけど」


 あはは、といつも通り快活なアキラくん。


「えー、これ、どうやって洗う? 砂付いてるし」

「ほっとこか」

「ダメ! バイキンはいる!」


 アキラくんは仕方なさそうに肩をすくめ、「華、ちょおさがっててな?」と言って蛇口を上に向ける。そして、思いっきり水道の水を全身で浴びた。


「きゃぁぁあ風邪引くよ!?」


 ハーフパンツもべしょべしょだ。


「乾くやろ、そのうち」

「乾かないよ、もうあと3年男子のクラスリレーで閉会式だよ」

「まぁええやん」


 アキラくんは笑って、水道を止めた。


「背中、砂取れとる?」

「あ、うん」


 近づいて傷を確認する。


「見る感じは」


 まだ血が滲んでいて、ひどく痛々しい。


「……ごめんね」

「ん?」


 アキラくんは振り向く。


「私と約束したから。その、無理した?」

「した」


 そ、即答。


「ごめんね?」

「や、俺が勝手にした約束やし。つか、華と約束なんかしてなくても、無理してた」

「……?」

「良いとこ見せたいに決まっとるやん」

「そうなの?」


 私は首をかしげる。


(男の子だもん、カッコつけたいのかな)


 体育祭だもんねぇ。


「だから、華のせいちゃうで」


 そう言って私の髪に触れようとして、手が濡れていることに気がついたのか、そっと引いた。


「撫でて」

「は?」

「なんとなく」


 なんだか嫌だった。何が? それははっきりしないけれど、触れて欲しかった。ただ、きみに。


「……ん」


 少しだけ遠慮気味に、アキラくんはそっと私の髪に触れた。すこしだけ、触れるだけ。

 私はそっと、目を伏せた。



「……ん」


 少しだけ遠慮気味に、アキラくんはそっと私の髪に触れた。すこしだけ、触れるだけ。

 私はそっと、目を伏せた。

 そこで、やっっと私は気がつく。今の状況に。


(はははは裸)


 いやもちろん、上半身だけなんだけど。


(どどどどどどうしよ)


 唐突に羞恥心が襲ってくる。多分、いますごく顔が赤い。


「華?」

「ごっごめん、あのねそのね、何でもないんだけどっ」

「何でもないことあらへん、顔真っ赤やで? 熱? 熱中症?」

「ないない、ないの、ただね、ほら上半身裸だから」


 私は何を口走っているんだ。大人なのに。


「は? 俺が?」

「……うん、ごめん」


 この際だから謝っておこう。


「なんか、なんかね、照れちゃって」

「男やで?」


 いや、そりゃそうなんだけどさぁ!


「見慣れへん? 授業でプールとかもあったやろ」

「や、違くて、あの。……アキラくん、だけ」


 そうなのです。どうやら、アキラくんの、だけ。他の男子はなんてことなかった。プールでも、さっきの騎馬戦でも。


「俺だけ?」


 静かに、アキラくんは問い返す。


「だっからね、見ないようにしてるんだけどっ」


 言い訳しながら「ヤバイな」と思う。なんか、私、気持ち悪いよね!?

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