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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】山ノ内瑛
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悪役令嬢と体育祭

 なんだかドキドキしてる気持ちをごまかすように、私は千晶ちゃんに圭くんを紹介した。


(初対面感を出さなきゃなのが大変だよね)


 思わず苦笑してしまう。千晶ちゃん完全に挙動不審。


「ええと、親戚の子で、一緒に暮らしてる常盤圭くん」


 圭くんは不思議そうに、千晶ちゃんを見つめた。長い睫毛をぱちぱちとして……。

 千晶ちゃんはぺこっと頭を下げて「鍋島千晶です」と小さく言った。頬、真っ赤。千晶ちゃん、色々ばれるって!


「ええと?」


 圭くんはきょとんとしてる。「で?」って感じで……そりゃそーだ、いきなり姉(というか、なんというか)の友達紹介されてもなぁ。


「あの、わたし。常盤さんの作品、好きで」

「あ、とーさんの?」


 圭くんは嬉しそうに言った。


「が、画集とか持ってて」


 もじもじと千晶ちゃんは言う。


「圭くんの作品も見てるよ。お父さんがネットにあげてたやつとか」

「えー、やだな。割とあの人勝手に上げたりするからさ」


 圭くんはそう言ってるけど、少し嬉しげ。わたしは思わずにまにましてしまう。うん、なんか甘酸っぱいですよ!


「ええと、体育祭応援してるね」

「ありがとー。でも気が重い」


 圭くんは少し大人っぽいそぶりで肩をすくめた。


「今から騎馬戦あんの」


 むう、とした顔で圭くんは口を尖らせる。


「え、そうなの?」


 去年は無かったけど、と言うと今年の二年生かららしい。組体操が無くなったので、その代わりに試験的に導入とのこと。

 ……どっちにしろ危なくない? とは思うけれど、組体操よりはいいのかな。


「へー、頑張ってね」


 笑って圭くんの頭を撫でた。拗ね顔まで可愛いったら。……しまった、千晶ちゃんが羨ましそうな顔をしてる。


「やだよあんな野蛮な競技」


 おれはサッサと退場します自主的に降参します、と圭くんは両手を上げた。


「そーんなことさせるかい常盤」


 ふ、と背後から声をかけてきたのはアキラくんだった。


「聞いてたの山ノ内」

「なに自分から負けようとしてんねん、気合い見せんかい。副将やろ」


 副将なのか! 思わず圭くんを見るけど相変わらずの嫌そうな顔。好きでなったわけじゃなさそうだなぁ。


「やだよー……山ノ内が頑張って」


 大将なんだから、と圭くんは呟く。

 仲良さげな様子に、思わず「あれ、友達?」と声をかけた。圭くんは不思議そうにアキラくんを見て、私を見て「むしろ二人が友達?」と首を傾げた。


「おれと山ノ内は、同じクラスなんだけど」

「あ、そーなの」


 私は頷いて、アキラくんとは入院仲間なんだって話をする。


「ふーん、縁もあるもんだねぇ。じゃ、おれ」

「逃すか」


 アキラくんは圭くんの腕を掴んでにこりと笑う。圭くんは嫌そうな顔をするけれど、本気で嫌なわけじゃないみたいだった。


「ほんならな」


 にこり、と笑って行こうとするアキラくんに、思わず声をかける。


「あ、アキラくん」

「ん?」


 何? と振り向くアキラくんに、小さく「アキラくんも、その、騎馬戦頑張ってね」と声をかけた。

 いや、別にアキラくん個人じゃなくて! 同じ赤組だから!


「……おう」


 アキラくんは笑って、それから私のそばまで来て、少しだけ声を潜める。


「かっこいーとこ、見せたるわ」

「へっ」

「大将首とってくるな」


 思わず顔を上げた私に、にかっと笑って、それからアキラくんは圭くんと歩いて行ってしまった。

 すこしだけ、ほうっとしてその後ろ姿を眺めた。少しずつ少しずつ、私より大きくなっていくその背中を。


 今回の騎馬戦ルールは、良くある騎馬戦のルールだとおもう。

 ハチマキを取られたらダメで、制限時間あり。残った騎馬数が多い方が勝ち。ただし大将がハチマキを取られたらその時点で負け。2人いる副将が2人とも取られても、負け。片方ならセーフ、らしい。


(アキラくん、プレッシャーじゃないかな)


 目をやると、なんだか楽しそうにはしゃいでいる。テンション上がってる感じ。


(……楽しそうでなにより)


 ていうか、なんか、なんていうか。


(上半身裸だー!)


 いや、別にだから何ってことは! ないんだけれど! なんか! 照れる!

 ひとりで赤くなったり青くなったりしてる私を、ひよりちゃんが不思議そうに見ていて慌てて顔を引き締める。なに中学生の腹筋で照れてるの私!?

 やがて、競技が始まった。


(頑張ってっ)


 中学生とはいえ、騎馬戦、なかなか迫力がある。


「あ、副将とられたっ」


 宣言通り、圭くんはあまり抵抗しなかった。単純に手をケガしたくないんだな、と今頃気がつく。あの子は絵が好きだから。


「負けんなよ!」


 男子から応援の声が飛び、アキラくんはチラッとこちらをみて笑った。


「山ノ内、なんかヨユーだな」

「イケメン腹立つな」


 男子たちは笑いながら応援を続ける。アキラくん有名人だからなぁ。


「がんばれー!」


 観覧席から、千晶ちゃんも声を張り上げていた。


(結構白熱してる!)


 これはなかなか、手に汗握る展開なんじゃないでしょうか、……!

 全体的な数を見ると、なんとなく赤組は不利な雰囲気だ。


「わ、山ノ内、一騎打ちじゃんっ」

「がんばれ!」


 アキラくんは白組の大将と一騎打ち、という展開にまで持ち込んだらしい。ほんとに大将首(はちまき?)狙いに行くとは!


(これ取ったら、逆転だ!)


 息を飲んで見つめる。

 じりじり、と彼らは距離を詰めていく。


「アキラくんっ、頑張って!」


 緊張のあまり何も言えていなかったけど、やっとなんとか大声が出せた。

 アキラくんは口だけで笑って、その瞬間、相手の大将がふっと手を伸ばした。それを片手で払って、サッとハチマキを取る。歓声が上がった。


「うわ」

「わっ」


 周りから悲鳴のような声が上がって、私も口を押さえた。

 白組の大将が、ハチマキを取られた弾みにバランスを失って、アキラくんを巻き込むように落下する。

 と、同時に太鼓が鳴る。


「赤の勝ち!」


 体育委員が叫んで、アキラくんも立ち上がり、相手の白いハチマキを大きく掲げた。

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