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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】鹿王院樹
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悪役令嬢は頭を撫でる

東城さんの取り巻きさんたちが「え、鹿王院くん?」とざわつく。


(話し方的に、青百合組の子たちじゃなさそう)


 同じ部活とか、委員会の子たちなのかな?

 彼女たちが前髪を直したりしてしまっているのは、イケメンを前にしてつい無意識にしてしまう行動なのだろうか……。

 彼女たちのことは一切意に介さず、樹くんは続けた。


「まぁ、華らしいが」

「……あは?」


 笑って返すと、樹くんは東城さんにスマホを示した。


「証拠とはこれでいいか?」


 樹くんがスマホで録画していた一部始終の再生ボタンを押す。


"あそこにあるリップ。とってきてくださる?"

"や、やだ"

"ちゃんとしなかったら"


 動画はもう一つ。


"でも、この場合は。ひより様が悪いのですわ。あたくしを苛つかせたのだから、それは償ってもらわなくては"


 こっちはばっちり顔も映っている。


「鹿王院様? 勝手に録画だなんて、盗撮ではございませんこと?」

「知るか」


 樹くんは東城さんたちを見下ろして言った。


「盗撮だろうがなんだろうが、これが証拠なのは変わらんだろう」

「東城さんっ、証拠っ、あったよっ」


 樹くんのスマホを指差した。


「証拠、あるんだけどっ」

「だから何、ですの?」


 ふ、と東城さんは不敵に笑う。


「先生にでも言いつけになる?」


 東城さんが怯んだのは本当に一瞬で、すぐに態勢を立て直してきた。


「ですから、わたくしたち、とおっても仲良しですの。ふざけてただけ、ですわ」


 ねー、ひよりちゃん、と言い添える東城さん。


「仲良しなオトモダチ同士のおふざけの、ちょっとしたスパイス? そんな感じ? よろしいですか、鹿王院様」


 東城さんがキツく樹くんを睨む。


「鹿王院様とて、やっていいことと悪いことがございますわ。いちいち部外者が、女子の仲良し同士のお遊びに首を突っ込まないでくださる?」


 きっ、と樹くんを睨みあげる東城さん。それを樹くんは冷たい目で見ながら、口を開く。


「俺は門外漢だから、詳しいことは分からんが、オフザケだろうが何だろうが、こういった行動は法に触れるのではないか? それがオフザケで済まされるものなのかは、裁判官に判断してもらおう」

「裁判……、え?」


 ぽかん、と樹くんを見上げる東城さん。


「うちで懇意にしている弁護士の先生がいる。相談してみよう」

「え? は? そんな大事にする問題ですの? これ。は、門前払いですわよ」


 バカにするように笑う東城さんだけど、少し引きつっている。取り巻きさんたちに至っては、お互いに不安そうに顔を見合わせていた。


「相手にされないかどうか、それはお前が決めることではない」


 樹くんは冷たく言う。


「では、後は弁護士を通して連絡する。行こう、華。それから、大友」

「え、あ、はい」


 きょとん、とひよりちゃんは返事をする。


「華の友達なら、俺の身内だ。いいか」


 樹くんは東城さんを軽く睨む。


「俺は身内に手を出されたら容赦せん。覚えておけ」


 そして私の手を取り、さっさと歩き出す。私はひよりちゃんと手を繋いでいるので、私を真ん中に3人で仲良くおてて繋いで、みたいになってしまった。


「なんだこれ」


 私が思わず呟くと、ひよりちゃんは「て、いうか」と言って立ち止まった。私たちは手を離す。


「ひよりちゃん?」


 顔を覗き込んで名前を呼ぶ。


「は、華ちゃん」


 ひよりちゃんはぽろり、と泣き出した。


「ありがとうぅ~、こ、怖かったの」

「ひよりちゃん」


 私はひよりちゃんをぎゅうっと抱きしめる。


(怖かったよね)


 怖かったに決まってる。あんな悪意には、初めて触れたのだろう。


「もう大丈夫だよ」


 私、結局何もしてないけどね……、神様仏様樹様、というか、弁護士様?

 樹くんのことだから、今日中にでも連絡を取ってくれるだろう。

 ぽんぽん、とひよりちゃんの頭を撫でる。大丈夫大丈夫、と言いながら。

 歩いて行く人たちがジロジロと見るけれど、気にならない。それより、ひよりちゃんのケアの方が大事。

 樹くんが、少し移動して人目にあまりつかないように盾になってくれた。


「でも、助けてって言って欲しかったな」


 優しく言うと、ひよりちゃんはまたポロポロと泣いた。


「う、うん、ごめん」

「何かあったら絶対に言って」

「う、うん」


 しゃくりあげながら返事をしてくれて、私はほんの少しだけ安心する。

 まだ何も終わっていないのだけれど、とりあえずは、ね。

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