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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】鹿王院樹
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悪役令嬢と発熱

 もう一泊、樹くんちにはさせてもらうことになっていてーーそのお風呂で、私は泣いてしまう。

 さっきのことの、思い出し泣き。


(うう、情けない)


 少なくとも、私の中身、というか記憶は大人なはずなんだ。……でも、千晶ちゃんも言ってた。私の身体も、脳だって、中学生の女の子のものなんだって。

 だから「同じ歳の男の子」を好きになってもいいはずだし、こんな風に泣いたりすることだって、あっていいはずだ。


(決めた)


 真さんにも言ったけど、樹くんに他に好きな人ができたら、私はすぐに身を引こう。

 きっとすぐに分かる。私は、それだけ樹くんを見てるつもりだから。


(それでも、たとえ友達としてだって)


 期間限定だって、私は堂々と樹くんの隣に立っていたいから。だからーーそれにふさわしい人になろう。


(どうすればいいのかなんて、見当もつかないけど)


 そんな訳で長湯になってしまって、洗面所でもぼうっとしてしまったせいか、そもそも風邪をひきかけていたのか……翌朝目覚めると、身体が熱くて重かった。


「38.3」

「病院行く?」


 静子さんは私から体温計を受け取って首を傾げた。


「いえ、あのう。帰ろうかと」

「バカ言わないで。治るまでいなさい。あの家、いま敦子以外いないんでしょ?」


 あの子の壊滅的家事能力は知ってるでしょうに、とデコピンされた。


「そもそも敦子も仕事じゃない。ウチなら誰かしらいるんだから」

「でも」

「敦子もそうしなさいって」


 言われて、私は少し考える。お邪魔してるのは申し訳ないけれど、敦子さんもそう言ってるなら、うん、実のところひたすらねむっていたいんだ……。


「病院いく?」

「いえ、寝てます」

「そう? 大丈夫?」


 私はうなずく。だって、半分考えすぎて出た熱な気もするし。知恵熱的な?

 樹くんは部活で学校へ行っている。広い広い家は、しんとしていて少しさみしい。


 熱があるときは、変な夢をみる。ぐらぐらと、船の中にいるような夢たった。

 ふと目を開けると、樹くんがいた。頭は相変わらず、熱のせいかフワフワしている。じっとりと汗をかいて気持ちが悪い。


「?」


 時計に目をやると、まだお昼の正午過ぎ。樹くんがいるわけがない。まだまだ部活のはずだ。


(あ、じゃあ、これ、夢の続きか)


 私は笑ってしまう。どんだけ好きなんだろ。


「大丈夫か?」


 夢の中なのに、はっきりとした声の感じがして嬉しい。樹くんの声。好きな声。

 ふふ、と気だるく笑うと樹くんは不思議そうな顔をした。


「樹くん」

「なんだ? お茶でも飲むか」

「んーん」


 私は手を広げた。


「? なんだ?」

「おいでー」

「……華?」

「ぎゅーして、ぎゅー」

「華?」


 戸惑う樹くんに少し腹が立つ。夢なんだから、もっと私の思い通りに動いてくれていいのに。

 ぷう、と頬を膨らませると、恐る恐るって感じで、でも笑って、ぎゅうっと抱きしめてくれる。

 現実だったら、汗臭いのとか気になって絶対できないけど、でもこれ夢なんだもんね~と働かない頭で思う。


「すきー」


 現実なら言えないことだって言えちゃう。


「……俺もだ」

「あは」


 さすが夢だ。お願いが叶っちゃう。すごいすごい。


「ねぇ、いちばん好き?」

「ああ」

「ずーっと好き?」

「当たり前だ」

「あいしてる?」


 樹くんはふと息を飲んで、それから「愛してる」と言ってくれた。


(夢ってすごーい)


 明晰夢ってやつかな。ああ、毎日見られたらいいのに。

 夢の中なのに、私は少し疲れてしまう。どきどき疲れだ。

 うとうとする私の頭を、樹くんは撫でてくれる。


(夢なのに眠くなるのね)


 不思議な感覚だ。そうして、また船酔いする夢を見る。さっきみたいな夢がいのに、そう都合よくはいかないみたいだ。現実って厳しいなぁ。

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