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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】鹿王院樹
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悪役令嬢は独り占めしたい

「ごめんねちょっと待っててね」


 樹くんのお家の車(運転手さん付き)で送ってもらったのは、隣の市のショッピングセンター。


「付いて行かなくて」

「よきです」


 ばっと手を前に出した。というのも、着替えを買いに来ているのです。


(最初はデパートつれてかれようとしたけど)


 私は苦笑いする。ショッピングセンターで十分だよねぇ。


「ではそこで待ってる」

「はーい」


 樹くんが指差したのは、チェーンのカフェ。


「すぐ戻るね」

「ゆっくりで構わない」


 そうは言うけれど、泊まらせてもらう上に待たせるのも何なので、さっさと買い物を済ませてしまう。


「ええとなにがいるのかなっ」


 とりあえず、替えの下着と(一瞬、ほんとうに一瞬、樹くんはどんなのが好きなんだろとか思ってしまった恥ずかしい)歯ブラシと、……と買ったところでぽん、と肩を叩かれた。


「?」


 樹くんかなぁ、と振り向くと全然知らない2人組。高校生くらいの男の子たち。

 茶髪でピアスたくさんついてて「僕たちチャラいです」を前面に押し出してた。


「こんばんは〜」


 挨拶をされながら、もうそんな時間なのかと思う。


(19時くらい?)


 樹くん、お腹空いてるよねぇ。部活後だもんね。


(私ですらお腹空いてるよ)


 はやくカフェまで戻らなきゃな、なんてぽけっと考えながら「こんばんは」と返す。


「買い物? 親と来てるの?」

「いえ、もう帰るところですが」


 なぜそんな質問を、と思いながら答えた。なんだろう?


「じゃあさ、ちょっと遊ばない?」

「少しだけ」


 男の子たちにそう言われながら、私はやっと気がつく。これ、ナンパ!?


(し、ショッピングセンターでやんなくても……)


 呆れたような視線に気がついたのか、男の子たちは笑った。


「いや、ナンパしようなんて思ってなかったの」

「そうそう、単に買い物に来てて」

「でもあんまり可愛いからさぁ、これ逃したら絶対後悔すると思ってさぁ」

「なー」


 随分と調子の良いことを並べてくれるなぁ、と私は苦笑いする。


(ナンパってさぁ)


 可愛い子よりは「ちょろそうな子」に行きがちなのは、前世の(悲しすぎる)経験たちで学習済みなのです。

 何せちょろかったから。悲し。


(……今もちょろく見えてるの!?)


 この顔、割合キツめだと思ってたんだけど。悪役令嬢さんだからさ。

 中身のゆるさが漏れ出てるんだろうか……。引き締めなくては!


「友達と来てるので」


 ツン、とそう言って離れようとした手を、なんだかやんわりと掴まれる。


「だめー?」

「もう帰らなきゃなので」

「あ、ごめんあのさぁ」


 もう1人の男の子が首を傾げた。


「連れってさ、男の子?」

「? あ、はい」

「あらまー」


 ぱ、と手を離された。


「?」

「ごめんごめん、彼氏さんにあんま怒んないでって伝えといて」


 そう言われた次の瞬間に、私はぽすりと誰かの腕の中に閉じ込められていた。


「彼女に何かご用事ですか」


 ものすごく低い声。


「道を聞いてただけだよ〜? じゃーね」


 ひらひらと手を振って男の子たちは離れていく。恐る恐る見上げると、怒ったような……というかかなり怒ってる樹くんの顔があった。


「華」

「あ、ごめん、その」


 遅くなったから迎えに来てくれたのかな、と樹くんを見上げながら私はやっと状況を理解する。


(だ、抱きしめられてますっ)


 ぎゅうっと!

 頬に熱が集まる。ど、どうしよう。

 顔が暑すぎて、なんだか涙目にもなってそうだし。


「華」


 私を覗き込んだ樹くんがギョッとした。


「怖かったのか?」

「や、ええと、違って」


 言いながら思う。

 樹くんは、あの子たちから守ろうとしてくれただけだ。


(きっと、これが私じゃなくても)


 ずきり、と胸が痛む。

 同じように助けていたんだろう。


(こんなふうに、抱きしめて?)


 そう想像すると、勝手に涙が湧いてきた。


「怖かっただろう。済まない、早く追いかけていたら良かった」


 樹くんの声は後悔でいっぱいって感じで、優しくて、私はそれに余計に反応してしまう。


「こっちへ」


 樹くんに手を引かれて、自動販売機のある休憩スペースのソファに座る。

 ほかに人はいなくて、私は泣き止むきっかけを失ってしまった。


「華、ほんとうに済まない」


 樹くんはめちゃくちゃ責任を感じてるみたいだった。横に座って、背中を撫でてくれる。あったかい。


(なんで?)


 単なる「家族」みたいな友達が、ナンパされかけてただけで、なんで、そんなに。

 ただ私は首を振る。樹くんのせいじゃない。


(……泣いているのは、樹くんのせいだけれど)


 優しく甘やかしてくれてるのが心地良くて、甘酸っぱくて苦しい。

 樹くんは私の頭を撫でてくれる。

 私は泣き止みたくない。

 泣いてる間は、樹くんを独り占めできるから。

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