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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】鹿王院樹
117/161

悪役令嬢といじめの予兆

※話の都合上、一部別ルートと共通する部分がありますがご了承ください

 夏休み、だらだらしてる訳にはいかない。夏休みの課題は公立以上に(少なくとも『前世』において私が通ってた公立、ってことだけれど)きっちりあるし、登校日にはそれをきっちり提出していかなくちゃいけない。


「ねー、もう、ほんと難しすぎたんだけどー!?」


 ひよりちゃんはブツクサ言ってる。


「エスカレーターだから受験ないんだし! 少しくらい手を抜かせてよ!」


 どーせわたし、音楽科なのにさ! とぷんすかしてるひよりちゃんに、竜胆寺さんが淡々と言う。


「それでは高校からの進学組の皆さんと差がつき過ぎますわ。大友さんは兎も角、わたくしと設楽様は普通科、もしくは特進科なのですわよ?」


 二人は喧々と言い合いしている。けれど、なんていうか、仲のいい言い合いって感じです。


(仲良くなったよなー)


 転校して来た当初が不思議なくらいだ。……とはいえ、少しヒートアップしてきたなぁ。


「ねえねえ」


 私は声をかけた。


「カフェまで飲み物買いに行かない?」

「あら」

「さんせーい」


 この学校、カフェテリアなんつうものまであるんだよなぁ。しかも、普通に美味しいという……。


「ていうか、このジメジメどうにかならないかなぁ」

「気温もある上に、この湿度ですからねぇ」


 カフェテリアへ向かうため、竜胆寺さんと、ひよりちゃんと廊下を歩いてて、そんな話になる。ずっと気温と湿度に文句言ってる。まぁ、言っても仕方ないんだけどさ!

 セミだけが元気だ。窓の外は大きな入道雲。


「あのねぇ、楽譜もしめるの」

「え、ほんとに?」

「ほんとほんと。そもそもね、……っと」


 カフェテリアから出てきた女子と、ひよりちゃんがぶつかる。

 ぶつかった女の子は、無言でひよりちゃんを見ると、サッサと行ってしまった。


(か、感じ悪っ)


 思わずそう思ってしまう。だって、なんだか……うがちすぎ、かもだけれど。


(わざと、じゃなかった?)


 思わず眉をひそめてしまう。


「東城様ですね」


 竜胆寺さんが目で追いながら、ふと呟く。


「……少々、性格が苛烈でらっしゃることで有名ですので、多分ご機嫌が麗しくなかったのかと」


 か、苛烈?


「なんかさぁ、最近あの子……東城さんだっけ? よく校内で会うんだけど、いつもあんな感じ」


 ひよりちゃんが肩をすくめた。


「嫌われてるっぽいんだよねー」

「え、ほんとに?」


 私もさすがに眉をひそめ、そして考えていた。

 もしかして、あの子が"いじめ"を起こすんじゃないかって。


(とりあえずは、千晶ちゃんに相談だ)


 できることなら、未然に防ぎたい!

 そんなこんなで、私と千晶ちゃんは放課後、駅近くのファストフード店で「悪役令嬢会議」を行っていた。


「なるほどねぇ」


 千晶ちゃんは指でポテトを丁寧に摘みながら答える。


「あり得る、のかも」

「でも、どーしたらいいのかなぁ」

「思うに」


 千晶ちゃんは、私を見て首を傾げた。


「華ちゃん頼みで、申し訳ないんだけれど」

「うん」

「ひよりちゃんが、華ちゃんの傘下にいることをアピールする、とか」

「……というと?」

「華ちゃんってさ」


 少し言いにくそうに、千晶ちゃんは続ける。


「常盤コンツェルンのお嬢様、で……鹿王院の許婚、だから」


 私は少し、息を飲む。そう、許婚。

 形だけの、って体育祭で言われてたことを思い返す。胸が少し詰まって、それが不思議だと思う。


「学園内では、正直、ヒエラルキートップなんじゃないかな」

「そ、そんなことないと」

「だって」


 千晶ちゃんは言う。


「ゲームで、華ちゃんは実際それで、学園内で怖いもの無しだったんだから。それこそ、女王陛下、なんて揶揄されるほどに」


 私は黙り込む。たしかに、その通りだ。


「……樹くんとの婚約は差し引いても、ひよりちゃんのバックに華ちゃんがいる、ってのを見せつけておくのは悪手ではないはず」

「そ、だね」


 私は頷いて、それからふとお子様スマホを見て立ち上がる。


「あ、やば、もう時間だ」

「鹿王院家とお食事ですって?」

「や、そんな大層なものじゃなくて」


 もうすぐ帰国する樹くんのご両親に会う前に、顔合わせの会場をおばーさま方が決めたいらしく。その打ち合わせなのです。


「じゃあ送るよ」


 道道話しながら、という千晶ちゃんの言葉に甘えて、ファストフード店を出た。


(もう来てるかなー)


 敦子さんの赤いスポーツカーを探す。

 敦子さんと待ち合わせして(圭くんはお留守番)いた場所へ向かうと、樹くんもいた。


「華」

「あれ、樹くん?」

「一緒に乗せてもらうことになってな。……鍋島、久しぶりだな」

「だねー」


 千晶ちゃんはヒラヒラと手を振る。

 その時、道いっぱいに、大きな音楽と、拡声器で音割れした男の人の声が響き渡る。


「あれ? 選挙近い?」


 私は音源の方に目をやる。


「や、これあれだね」


 千晶ちゃんが、そちらを見る。


「最近騒がしい新興宗教」

「ああ、例の」


 樹くんが少し眉をひそめて答えた。


「やたらとマスコミが煽っているな。よくない傾向だ」

「え、なになに」


 何せ、テレビのない環境にいるので、世間でなにが起きているのか少し疎いのです。

 街宣車がゆっくりとしたスピードで走っていく。西洋風なような、お経のような、ちょっと不思議な音楽。

 車に付けられた看板には「世界の終わりが近い」とおどろおどろしい赤文字で書かれていた。


「やだねー、ああいうの。不安煽って」


 信じちゃダメだよ、と千晶ちゃんは言う。


(世界が終わる、かぁ)


 なんだっけ、覚えがある。恐怖の大魔王が降りてくるってやつ。ええと、そうだ。


「あは、思い出した、ノストラダムスみたい」

「ノストラダムス?」


 樹くんが不思議そうにして、私は「えへへ」と曖昧に笑った。そうか、中学生、生まれてもないのか……!


(私、なんとなく覚えてるけど)


 幼稚園だったかなぁ。お姉ちゃんに「もう世界が終わってみんな死ぬんだ」って随分と脅されたなぁ……。小さかったけれど、怖すぎて良く覚えてる。


(ていうか、この世界にもノストラダムス、いたのかな?)


 歴史的な人物は共通してるけれど、と千晶ちゃんを見ると、軽く頷いてくれる。あ、良かった……良かったのかな? とりあえず、かの預言者かなんだか知らないオジサンはこの世界にもいたらしい。

 不思議そうな樹くんに、千晶ちゃんが説明してくれた。


「ノストラダムスの大予言っていう、世界が終わるだの終わらないだの、そういう噂があったんだよ、20世紀末に。中学生は知らないだろうけど。中学生は、生まれてもないから知らないだろうけど」


 お、オカルト好きな子とかは知ってるかもじゃん! と千晶ちゃんを軽くにらむ。なんだよもう、中身は同じくらいな癖してさ! アラサーいじりしなくたって!


「ふむ?」


 樹くんは首をかしげる。


「信じたのか? 信じてどうする、そんなもの」

「さぁ、……分からないけど、彼らは」


 千晶ちゃんはちらり、と街宣車を見遣る。少しずつ遠ざかる音楽。


「死にたくなければ、ウチの宗教に入りなさい、ってことみたい。自分たちではキリスト教……、カトリックを名乗ってはいるらしいけど、もちろんバチカンは認めてない」


 それから千晶ちゃんは少し皮肉っぽく、笑う。


「それに自称、隠れキリシタンの末裔とか言ってるけど、そもそも創設が最近っていう、ね。隠れるも何もないよね」

「へえ、長崎とかの? ほんとのかも?」


 詳しくないけど、と言うと千晶ちゃんは首を振る。


「ほんとの潜伏キリシタンの方のやり方とは全然違うから別物だよ。あそこは騙ってるだけ」

「ダメじゃん」

「ダメなの、カルトだからね、興味持ったらダメ。気をつけて。華ちゃん」

「わ、私? 大丈夫だよ」


 中身は大人だっつーの、……ってこういうのあんまり大人子供関係ないのかな?


「どうかな、騙されやすそうだから」

「失礼な……」


 樹くんを見上げると「その通りだ」って顔で「うむ」と頷かれた。

 む、私、結構しっかりした成人だったはず、なんですけれどね!?

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