表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】鹿王院樹
115/161

悪役令嬢のサムズダウン

 私は微笑む。


「行こう圭くん」

「え?」


 戸惑う圭くんの手を取り、立ち上がる。


「私ね、もう食事に戻らずに。ここの人に頼んで、部屋に食事持ってきてもらおうかなって。1人だとつまんないから、おしゃべり相手、して?」

「ハナ?」

「ちょっと、アタシの話聞いてるの」


 シュリちゃんの苛ついた声。


「デザートは食べた?」

「あ、うん」

「無視? ねぇ、本当のこと言われてムカついたんでしょ?」


 私は圭くんの手を引く。


「なんだった? デザート」

「あ、えっと、ココナッツミルクにフルーツが」

「うっそ、楽しみ!」


 それはめちゃくちゃ美味しそうだ。


「聞きなさいよ」


 シュリちゃんの声が、少し低くなる。

 私は無視をして足を進める。


「そういえば、さっき樹様だって、アンタに触れるとき怖い顔してた! ほんとはアンタなんかに触れたくないんだ!」


 急に勝ち誇ったような声で、少し裏返ったような声で、シュリちゃんは叫んだ。


「樹様だって、本当はアタシがいいに決まってる!」


 何も知らないコドモ。

 自分が正しいと、信じているコドモ。

 私の脳裏に、松影ルナが浮かんで、消えた。


「ねぇ、返事は!?」


 シュリちゃんは早足でついてくる。苛つきで、声が完全に裏返っていた。


(こんな簡単に煽られなくても)


 こっちに相手をする気がない、と分かるのだから、シュリちゃんだって無視すればいいのに。

 苛つく相手に、わざわざ絡んでいく気持ちが分からないのは、私の中身が大人だからだろうか?


「そういえばお刺身、大丈夫だった?」

「え?」

「イギリスでもお刺身食べれるの?」

「あまり食べたことはないけど、時々お寿司食べに行ってた、とうさんと」

「そっかぁ」


 ジャパニーズスシ。流行ってるのかな、イギリスでも。


「ねぇ、ほんとのことじゃない! アンタたちは死神! そのうちさ、ほら、父親の方だって!」


 なおも背後から聞こえる、ヒステリックな声。

 私は振り向いた。


「誰も聞いてないよ、アナタの話なんか」


 シュリちゃんは目を見開いて、唇をわななかせた。


「き、聞いてるじゃない」


 私はその声を完全に無視して、早足で圭くんの手を引いた。ロビーまで戻り、さてどうしたものか、と考えつつ、圭くんの、その綺麗な翠色の目を見つめた。


「なに?」


 視線に気がついた圭くんが小首を傾げるーーはぁ、可愛い。


「目がきれいだよね、お母さんと同じ?」

「ん?」


 圭くんは手でまぶたに触れるようにして、ほんの少し、はにかむように笑った。


「うん、あんまり覚えてないんだけど」

「素敵な色だね」

「ほんと?」

「うん」

「あの子には、気持ち悪いって言われたから」


 圭くんは、少し寂しそうに言う。


「日本ではあんまりいい色じゃないのかなって思ってた」

「え、そんなことない」


 シュリちゃんの口撃、あれずうっと受けてたら精神的に来るよなぁ……。


「チアキも褒めてくれてたんだけれど」

「ほんと?」


 くすくすと笑う。千晶ちゃん、元々、圭くん推しだからなぁ。すごいベタ褒めだったんじゃないだろうか。


「ま、とりあえず戻ろっか。それでさ、ほんとにゴハン部屋に運んでもーらお」

「あ、ほんとに?」

「うん。これ以上、シュリちゃんとご飯ムリ」


 ってことを、広間に戻って敦子さんに伝える。さすがにね。


「死神? 呪われてる?」


 敦子さんは大伯父様とアカネさんを見た。


「そんなことを、この子たちに?」


 全身から不機嫌オーラを吹き出しながら、敦子さんは言う。


「本当のことではありませんか……あら、華様も同じね。ふふ、だって」


 朱音さんは口に手を当てて、上品に笑った。


「それ以上その口を開いてみなさい」


 敦子さんはアカネさんの言葉を遮り、睨みつけた。


「全力で貴女を潰すわ」

「や、やれるものならやってみなさいよ」

「そこまでにしておけ、アカネ。敦子を怒らせると後々面倒くさいんだ」

「そんな、あなた」

「それで、圭だが」


 大伯父様はチラリと私と圭くんを見た。


「桂男というものがいる」

「……は?」

「圭の名前に、木をつけたら桂になるだろう」


 何を当然のことを、と言わんばかりの大伯父様。


「はぁ」


 生返事になる。なに言い出すんだろ、このヒト。


「コレは月に住んでおってな、月から手を招いてヒトの寿命を縮めるという」

「……はぁ」

「名は体を表すという。そこの圭もまた、その宿命を背負っているのではないかとな、まぁそういう話だ」


 ぽかん、と大伯父様を見つめる。


(……言い訳、それ?)


 適当すぎる。

 ウチに来たばかりの圭くんをおもいだす。


『触らないほうがいいよ』


 寂しげに言った、圭くん。


(かなり、精神的にきてた、はず)


 父親の母国とはいえ、知らない場所、頼りの父親は入院してて、それも心配で不安だろうに、そこに塩を塗り込むみたいにそんな言葉を放った、このひとたち。


「……あの、大伯父様?」


 私は首をかしげた。


「月に生物は住んでおりませんよ」

「そんなことは分かっとる、単に」


 遮るように続けた。


「まぁ、将来的に微生物くらいは発見されるかもしれませんが」

「だから」


 少し眉を寄せる大伯父様に、にっこりと微笑んでみせる。


「大伯父様ったら、夢見がち」


 語尾に星マークつけちゃう口調。


(あ、私。怒ってる)


 シュリちゃんには感じなかった怒りが、このヒトたちにははっきりとそれを感じた。


(大人なのに)


 圭くんが、どんな環境にいるのか分かっているはずなのに。大伯父様なんて、圭くんは自分の孫なのに。一番ケアしなきゃいけない立場の人間が、こんなことでは。

 だから思いっきり右手を手を握りしめ、親指だけピンと立てて地面に向ける。サムズダウン。満面の笑みで、見下すようにこう言った。


「寝言は寝て言えクソジジイ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ