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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】鹿王院樹
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悪役令嬢は耳を疑う


 要は「自分の許婚はもう華で決定なのでアナタたちの入る隙はないですよ」というのを宣言しに来てくれていたようだ。


(どうなるか分からないけどね?)


 青井さんのことは、私の勘違いだったとはいえ……と、いうか。


(どうなるもこーなるも)


 そのうち、樹くんは「ヒロインちゃん」と、出会うんだから。ゲームのヒロインちゃん。


(樹くんの、運命の相手)


 そんな風に言ってしまうのは、少し言い過ぎだろうか?


「何かあったら言え、華」


 旅館のロビーで樹くんは言った。


「いつかみたいに、黙っているのとかは本当にナシだ。分かったか?」

「う、うん」


 久保のことーーだと思う。誘拐されて、それを黙っていた。

 その件に関しては反省しているので、素直に頷く。


「じゃあ、華、また。そうだ、明日のパーティとやらは何時までだ?」

「多分お昼の2時とか、かな?」

「では迎えに来るから、一緒に遊ぼう」


 樹くんは、少し嬉しそうに言った。


「船に乗るのも楽しそうだ」


 芦ノ湖のことかな? 私は頷く。せっかく来たから、観光したいもんね。それで誘ってもらえたのかなぁ。


「うん!」


 そう約束をして、ロビーで別れる。外までは暗いし、蚊もいるから来るなと言われた。相変わらず優しい。

 ガラス越しに車を見送って、踵を返す。


(すぐに戻りたくないなぁ……)


 さすがにシュリちゃんの口撃、ちょっと辟易してたのだ。別に傷つくとかはないんだけど。

 ちょっとお散歩して戻ろう、とひんやりした館内を、ぺたぺたと歩く。

 バーやカフェも入っているみたいだが、閉まっていた。


(貸し切りだもんね)


 カフェの前でぼうっとしていると、従業員の方が寄ってきて声をかけてくれた。


「お開けしましょうか」

「あ、いえ、大丈夫です。すみません」


 ぺこりと頭を下げて、さらに奥へ進んでみる。


「わぁ」


 大露天風呂へ続く、長い廊下。床以外が全て格子状の木枠に嵌った窓ガラス。日本庭園が眺められるようになっていて、庭で松明がぱちぱちと燃えているのが見えた。

 その手前の休憩スペース、昔ながらの囲炉裏がすえられたそこの、木製のベンチにちょこんと腰掛ける。


「ハナ」


 ふ、と名前を呼ばれて振り向くと、そこには圭くんがいた。


「イツキは?」


 圭くんと樹くんは、なんとなく仲がいい。だから追ってきたのかな、と首を傾げた。


「あ、ごめん。さっきもう、帰っちゃってー


 圭くんにも一声かけたら良かったね、と言うと首を振られた。


「違うよ、おれ、……大丈夫かなって」

「なにが?」

「あの子」


 ふ、と圭くんは軽くいきをはきだす。


「うるさくない?」

「あ、あー」


 私は苦笑いした。シュリちゃんのことだろう。


「おれに対しても、色々。死神だの、呪われるだの」

「……また?」


 私はゲンナリして聞き返す。性懲りもなく、まーだ、そんなこと言ってるのか!


「大体さぁ、呪われる、ってなあに」


 まぁどうせ、また下らない話だ。そう思っていると、ふと大きな声がした。


「そのままの意味よ!」


 その声に振り向くと、そこにはシュリちゃんがいた。長い髪、煌びやかな朱色の振袖。


(え、なんで? というか、)


「そのまま、って」

「知らないの!? そいつといると、周りの人が死んでいくの! そいつ自体が呪われてるの!」


 シュリちゃんは声高に言う。笑いながら。


「お母様が言ってた! ……あ、でもアンタもか」


 シュリちゃんの口が嗜虐的に歪む。


「だってそうじゃなきゃアンタの母親、殺されたりしないでしょ」


 私は動けずに、ただシュリちゃんを眺めた。


(いま、何て?)


 圭くんが息を飲んで、無言で私を見つめた。きれいな翠色の目。

 それからすっ、と顔を上げる。


「……おれのことはいいよ。でも、ハナにそんな」

「圭くんも、だよ」


 私は息を吐く。


「圭くんのことも、私のことも。そんな風に言わないで」


 私の言葉に、シュリは楽しげに笑った。


(こういうのって、親の受け売りなんだよね、大抵)


 私は自分でも驚くほどに落ち着いていた。脳が冷えていく。


(この子に何言っても無駄だ)


 そう思ったから。

 だってこの子は、きっとなんの悪意もない。正しいことをしてる、と思っている。親に言われるがままに。親の言う通りに。それが誰かを傷つける、なんて考えもせずに。


(この子は、コドモだ)


 だから、傷ついてなんかやらない。

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