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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】鹿王院樹
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許婚殿はエビが好き?

 シュリちゃんが今度は呆然としている。


「あれ、樹くん?」

「近くの旅館に来ていたのでな、御前にご挨拶と思ってな」


 樹くんはじろりとシュリちゃんを睨みつけた。それから、私の髪をひとふさ、そっと持ち上げてキスをする。


(……?)


 ……イタリア人でも乗り移ったのだろうか? こないだ遠征でイタリア行った時に、妙な学習をしてしまったとか?

 私が首を傾げている間に、樹くんはスタスタと大伯父様のところへ向かった。何人か大人たちも、慌てて立ち上がっている。


「御前、お久しぶりでございます」

「おお、鹿王院の」

「お食事中に失礼かとは思ったのですが」

「いや、アンタが来て失礼な場などないよ、鹿王院の。食事は」

「もういただいております」

「そうか」

「今回は、お礼に」

「礼?」

「はい」

「何かしたかな」


 大伯父様は、あごに手をやり考えるそぶりをした。


「華を俺の許婚にしてくださったことです」

「……ほう?」

「望外の幸せです」

「そうか」


 大伯父様はチラリと私を見て、そのあとシュリちゃんを見ながら「他に候補はいたのだがな」と呟いた。


「華以外は考えられません」

「ふん、なるほどな。敦子の差し金か」

「なんのことか」


 にこりと笑う樹くん。


(ああいう笑い方、初めて見たなぁ)


 でもなんとなく、事情は読めた。敦子さんが静子さんに援護射撃を要請して、それで樹くんが来たんだろう。何でかは分かんないけど。


「はは、まぁ噂には聞いていたが……なるほどな、おい華、どんな手を使った?」

「……は?」


 私は車海老を食べようとした姿勢のまま止まった。


(手?)


 手もなにも、エビの殻は剥いてありましたが……なので箸しか使っておりませんのことよ大伯父様。


「華はなにもしていませんよ御前、俺が一方的に……、好きなだけで」


 エビを?

 車海老を?

 私は箸で掴んだ車海老をお皿に戻した。あとであげよう。そんなにエビが好きだったとは……。


「そう言うな鹿王院の」

「お兄様、いい加減にしてくださらないかしら、無粋ですわよ」


 敦子さんが間に入る。


「ふん、どうせここに呼んだのもお前のくせに」

「なんのことだかサッパリ。樹くん、静子さんは?」

「旅館におります、俺もそろそろ戻らなくては。御前、また後日正式に披露の日取りをお知らせしますので」

「……分かった。おい華、お送りしなさい」

「あ、はい」


 私は立ち上がる。

 私の席まで来て「行こう、華」という樹くんに「エビたべてく?」と聞いたら不思議そうな顔で「いらん」と言われた。いやいやこっちが不思議なんですけど。好きって言ってたじゃん。

 そして、なぜかわざわざ樹くんは私の腰を引き寄せるようにして歩く。イタリア人型宇宙人に身体でも操られている……!?


(てか、やっぱりイタリア遠征で変な学習をしたのでは!?)


 首を傾げて見上げると、ちょっと怖い顔をしている。照れてる。まだイタリア男にはなりきれてないらしい。ちょっとホッとした。

 会場を出ると、樹くんはぱっと私の腰から手を離す。


「すまん、嫌じゃなかったか」

「嫌じゃないけど状況がいまいち」

「ああ」


 樹くんは笑った。


「いや何、本当に挨拶というのもあったのだがな、釘を刺しに」

「くぎ?」

「うむ。あの御前の娘な」

「ゴゼンって大伯父様のこと?」

「そうだ」

「じゃあシュリちゃん?」

「うむ。その娘だが、俺の許婚候補、だったらしい。俺もさっきまで知らなかったのだが」

「え!?」


 私はぽかんと口を開けた。


「御前の奥様が一方的に決めていたことで、祖母も両親も相手にしていなかったらしいが、なにせ御前の娘だろう。無碍にもできず、なぁなぁにしていたらしい」

「ほえーん。じゃあさ、アカネさんとシュリちゃんからしたら、私急に現れて樹くん奪ってったヤな奴じゃない……?」

「そんなことはない、それに俺は華が許婚で良かったと思っている」

「うん、私も樹くんで良かった」


 あの感じだとさ、変な人のとこでも平気で私を嫁がせそうだよね、あのジジイ……!


(樹くんとは仲もいいし)


 いい子だし、あと、うん、カッコいい。ふと思い出す。サッカーしてるとことか、体育祭での学ラン姿とか……ってなに想像してんの私!? 慌ててかき消す。

 ふと樹くんを見上げると、ぼけっと私を見つめていた。


「なに?」

「いや夢かと思って」

「ほっぺ引っ張ってあげようか、びよーん」

「ふは、華やめろ」


 楽しそうに笑う樹くん。


(うん、こっちの笑顔のほうが断然いいね)


 さっきの大人びた笑顔は、あんまり似合ってなかったよ。

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