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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】鹿王院樹
112/161

許婚殿は唐突に訪れる

 ぐずる敦子さんを引きずるように、会食の会場にたどり着いた。警備の人なんかも立ってて、ちょっと物々しい。


「あいつらと食べるご飯なんか絶対まずい」

「そんなことないですよ、美味しいですよきっと」


 敦子さんは着物。薄いグリーンの無地。よく分からないけど、帯や小物が少し派手目なので全体的にシックだけど華やかって感じ。ネイルも合わせた色で、さすがこういうお店経営してるだけあると思う。

 圭くんは普通のスーツ、なのに決まってる。ぴしり、ってかんじ。ていうか、上品。可愛い。


「……何撮ってるの、ハナ?」

「んー? んーんー?」


 えへへ、と笑って誤魔化した。ごまかせてない? ほ、ほら千晶ちゃんに送らなきゃだし。とか思いつつ、増えた圭くんフォルダ。ほんとに可愛いんだものなぁ。


「なんていうか、目の保養ですよ」

「声に出てるわよ華」


 ところで私は、明日のよくわからない会合で振袖を着るので、今日はワンピース。紺のシンプルなものだけど、真珠のネックレスを敦子さんが貸してくれたので少し華やか。

 髪にも真珠の飾りをつけてくれながら「あなたは綺麗だから、これくらいでも十分華やかねぇ」と褒めてくれて、ちょっと嬉しい。


「しち面倒臭いけど、とりあえず色ボケジジイに挨拶しときましょうか……華、とりあえず大伯父様でもクソジジイでも好きな呼び方で呼んでいいわよ」


(……大伯父様って呼ぼう)


 敦子さんはため息をつきつつ、私は苦笑いをしつつ会食会場に入ると、既にほとんど人が揃っているようだった。

 敦子さんは意に介すことなく、堂々と中央の席に座る壮年の男性の元へ向かう。


「ごきげんようお兄様お招きありがとう」


 無表情な声。


「相変わらずだな、お前は」

「褒め言葉として受け取りますわ。この子が華です」


 紹介されて、慌ててぺこりと頭を下げる。


「はじめまして」

「ふん」


 大伯父様はほとんど表情を崩すことなく私をみて「やはりロスケの娘だな、色が白い」とだけ言った。


(……ろすけ?)


 私は首をかしげる。なんだそりゃ。


「お兄様ッ!」


 敦子さんが激昂した。


「お言葉にも、ほどが」

「しかし見目が良くて良かった、鹿王院のもまぁ、気に入ったんじゃないか。飽きられんようにしなさい」

「モノのような言い方はよしてください、この子は」

「分かった分かった、キンキン叫ぶなお前は」

「……失礼します」


 敦子さんは私を連れて一度会場を出た。少し震えている。


「ごめんなさい華、嫌な思いを」

「大丈夫敦子さん、私何が何だか良く分かってないから」


 そう言って微笑むと、敦子さんは手を私の頬に当ててから、やっと笑ってくれた。

 こっそり圭くんが私に聞いてくる。


「ねえハナ、ごめんロスケってなに? 日本語?」

「なんだろう、私も良く知らなくて」


 ごめんね、と言うと圭くんは首を振った。


「ていうか、おれ、やっぱり完全にムシされてたねー」


 そう言って、少しだけ楽しそうに笑った。


「……大丈夫?」

「ん? 大丈夫大丈夫、あんなやつらにムカつきすら、しないから」


 もう一度会場に入り直して、席順に座って食事が始まり、私はこう思った。


 シュリちゃん怖いんですけど誰か助けて。


「育ちの悪さが顔に出てるわね」


 シュリちゃん、顔可愛いのに怖い。

 大人席と子ども席が離れていて、敦子さんの援護がない! 圭くんの席も遠い! チラチラと気にしてはくれているけど、でも泣いて助けを求めるってほどでもない、シュリちゃんからの口撃。

 周りの子たちは完全に見て見ぬ振り……というか、シュリちゃんも私のことも、気にしてすらいないようだ。


(でも、何で会った瞬間に既に敵認定されてんの!?)


 私は怯えながらお刺身を食べる。美味しい。それでも美味しい。メニュー表によるとヒラメ。


「あんた言われてるより全然ブスじゃん」


(や、でもこの鯛もまた。へぎ造り? 美味しいよなぁ)


 私は「はぁ」と愛想笑いする。


「目つきもきつ過ぎ!」


(お嬢さんはタレ目ですね)


 そう思いつつ、箸を移動させる。擦り下ろされた海老芋をお団子にして揚げたもの。


(うっわ絶品!)


 これどうやって作るの……?


(いやこの岩牡蠣も美味しい。蒸して、生姜のあんを……なにこれ美味しい天国?)


 私が呆然とそれを見つめていると、シュリちゃんはサディスティックに笑った。


「あは、それに色白すぎて気持ち悪い!」


 どうやら口撃に傷ついて呆然としていると思われているらしいが、なんのそのだ。


(中身はアラサーなんだぞ!?)


 ふん、と胸を張る。

 女子社会で30年近く生きたんだぞ。

 もっとエゲツないもん見てきたんだぞこっちはよぅ、えぇ、お嬢様!? って気持ちで石鯛の焼き物に箸をすすめる。


(美味しい)


 シンプルに、美味しい。

 わーい、車海老もあるぞ! と思っていたら、斜め後ろあたりから「雪のようで綺麗だろう、俺の許婚は」と聞き慣れた声がした。

 見上げるように振り向くと、なぜか立ってる私の許婚殿、というか樹くん。きっちり三つ揃いのスーツ。

 私はぽかん、と樹くんを見上げた。

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