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セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する  作者: にしのムラサキ
【分岐】鹿王院樹
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悪役令嬢は気恥ずかしい

「大事にされてるんだねぇ」


 女子のクラス対抗リレーの順番待ち、ひよりちゃんと前後して並んでいると、ふとそう言われた。


「へ?」

「あんなに怒ってさ〜」


 ふふ、とひよりちゃんは笑う。


「愛されてますって感じだね」

「え、えっと?」


 私は慌てて手を振った。だって多分、そんなんじゃないし!


「……樹くんは、多分、誰であろうとあんな反応だったと思うよ」


 優しいひとだから。


「そーかな」

「そーだよ」


 そう言って微笑むと、なんだかストンと納得した。うん、樹くんはそんなひとなんだ。真っ直ぐな男の子で、だから、私はーー。


「?」

「どうしたの?」


 ひよりちゃんに不思議そうに覗き込まれる。私は首を傾げた。


("私はーー"なんなんだろう)


 二人顔を見合わせあって首を傾げあっていると、竜胆寺さんに呆れたように呼ばれた。


「大友さん、もう次ですわよ!」

「あ、は、はーい!」


 ひよりちゃんは急いでバトンゾーンに向かう。ひよりちゃんの次は私なので、ドキドキしながらレースの展開を見守った。

 全8クラス中、ひよりちゃんは混戦の真ん中あたり、で抜きもせず抜かされもせず走ってくる。


(うー、どきどきだよ)


 私はバトンゾーンに入りながら思う。どうか、こけませんように、抜かれませんようにーー!

 と、バトンゾーンでひよりちゃんからバトンを受け取ろうとした時、だった。


「あ」


 ひよりちゃんの身体が傾ぐ。


「危ない!」


 声に出しながら、世界がスローモーションになったみたいに感じた。

 ひよりちゃんは、ぎゅうと手を庇った。肩と顔を犠牲にする気だ! おそらくは、無意識的にーー。


(ピアニストだから)


 手が一番大事。他のものは、どうだっていいんだ。例え、顔から突っ込むことになっても!

 反射的にひよりちゃんを庇う。……かっこよくできたら一番だったんだけれど、何やら揉み合ったみたいに私も強かに地面に身体を打ち付けた。


「……いたたた」

「……っ、華ちゃん!? ご、ごめんっ」


 ガバリと起き上がるひよりちゃんに、怪我は無さそうーーだけれど、私たちの横を1人、2人と追い抜いていく。


「やっば!」


 私は立ち上がり、バトンを手に走り出す。少し足が痛いような気がしたけれど、気にしてらんない!

 それから。


(えーい、もうどうでもいい!)


 正直、走ると胸が痛いし揺れるから見られてるような気もするし、なんかヤだけど、気にしてられる状況じゃない!

 無視だ! 無視!

 なんとか、1人だけ追い抜き返して次の人ーー竜胆寺さんにバトンを渡す。

 竜胆寺さんは綺麗に笑った。


「後はお任せあれ」

「へっ」


 その言葉通り、竜胆寺さんは怒涛の2人抜きを果たして2位で次にバトンを渡した。


「す、すごいっ」


 思わず飛び跳ねると、ズキリーーと足が痛む。


「は、華ちゃん」


 べそべそと半泣きで、ひよりちゃんが私を見る。


「ごめんね、怪我させちゃった」

「ん?」


 慌てて足を見ると、……うわぁ。


「あちゃー」


 膝からスネにかけて、結構な傷だった。流れる血で、靴下が血塗れだ。


「気がつかなかったや」

「ドーパミンでもでてらしたのでしょう」


 戻ってきた竜胆寺さんが気遣わしそうに言う。


「とにかく救護テントにーー」


 その時、悲鳴のような歓声が上がる。うちのクラスのアンカーの子が、1位とあと身体ひとつ分、というところまで迫っていた。


「が、がんばれーっ」


 私たちは声を張り上げる。アンカーの子はぐん、と身体を前に倒すように(コケはしなかったけど)ゴール!

 荒い息で振り向いて、Vサインを見せてくれた。逆転だ!

 私たちはキャアキャアとハイタッチしてはしゃぐーーけど、やっぱ、うん、足痛い。


「華ちゃん救護テントいこ? 大丈夫? 支えるよ」

「ですわね」


 ひよりちゃんと竜胆寺さんが言ってくれて、お言葉に甘えようかな、としていると、ふと影がさした。

 見上げると樹くんがいた。笑っている。


「速かったな」

「え、あ、そう? えへへ。……ていうか、なぜ?」


 なんでここにいるんだろ、と首を傾げるとふっと持ち上げられた。お、お姫様抱っこ!


「ぎゃあ!?」


 可愛くない声が出る。うわわ、なにされてますの私!?


「多分捻ってるぞ、右足」

「え、うそ!?」

「今はテンション高くて痛みがないだけだ」


 さくさくと私を抱えたまま、樹くんは歩き出す。


「ええと、でもその、目立ちますので」


 思い切り見られてる。ジロジロ見られてる。


「見られてていいんだ」

「えぇ……」


 なんで?

 気恥ずかしくて、顔を樹くんの胸に埋めるーーってこれはこれで恥ずかしい!

 慌てて顔を上げて、でも視線がやっぱり恥ずかしくて顔を手で覆った。

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