表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/366

蜃気楼

『こんだけ良質の黒糖ならまた取引願いたいね。お嬢ちゃん、他にいるものがあれば見繕ってくるよ』


店主にはどうやら良家の物知らずなお嬢さんだと思われたようだった。


「他にはどんな動物がいますか?」

『そうさね、家畜なら何でも揃うよ』


何でも、と言われると却って悩む。


「牛とか羊とか馬とか」

『仕入れられんことはないが…牧場でも始めるのかい?』


家畜と聞けば、それしか頭に浮かばなかった。


『牛の乳を絞るなら、雌牛と牡牛が必要だよ。馬は荷物を引かせるなら、荷台がいるね』

そう聞くとかなりの荷物になりそうだった。


「なに始めるつもり?」

「土小人の人たちに仕事を増やして、尚且つ私の仕事も作りたいのです」

八坂くんはそれ以上聞かなかった。


「馬を一頭と、牛を三頭お願いしたいのですが」

『次は新月の市だねえ。それまでに黒糖を今日の二倍用意できるかい?』


少し間を置いて、ゆっくりと頷く。

決して簡単に用意できると思われないためだ。

スーパーで一キロ、千五百円で買っているなんて。


「寅次さん、ありがとうございました」

『他の店はええんか?』

「山羊を早く届けないといけないので」


縄で繋がれた山羊たちがメェーメェーと鳴いている。腹が減ったのだろう。


『彼氏に届けてもらったらええやん』

「彼氏じゃないです。届けてもらうとなると大変だし、八坂くんに悪いので」

自転車で片道三十分弱だったが、往復となるとそれなりに時間がかかる。


屋敷の前にテレポートができたらな。

そう考えた瞬間、地面がぐにゃりと揺らぎ反転したような感覚に陥った。


平衡感覚を保てずに尻餅をつく。


「腰打った、痛い…」

呻きながら周囲を見渡すと、思っていた屋敷の前に座り込んでいた。メェーと山羊が鳴く。


どうやら持っていたものも一緒に移動したようだ。

『紅実子様、どうしたべ?』

あまりにも呆然としていたせいか、九太郎に心配されてしまった。


「…大丈夫です。あ、そうだ山羊を市で買ってきましたから田んぼに連れて行って、あぜ道の草を食べさせて下さい」

手に持っていた綱を九太郎に渡す。


『山羊だべや、めんこいの。紅実子様ありがとうございますだ』

河童たちは基本、頭を下げない。

皿の水がこぼれてしまうからだ。お辞儀するときにも顔はこちらを向いている。彼らなりの苦肉の策だろう。


「早く戻ってみなきゃ」

『お帰りたべか?』

九太郎が聞き返す前に、紅実子の身体は蜃気楼のように揺らいで消えた。


『ありゃ、“産土”か。久々みたべ』

今日もお読みいただきありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ