三本立て
尾上が立ち去った後、草葉の陰から赤槌が顔を出した。
『紅実子様の御心に感謝いたします』
「赤槌さん聞いてたんですか」
さっきの啖呵を聞かれていたとなると恥ずかしい。
「そういう訳だから息子さんに連絡をお願いします。土門さんには了承いただけましたよ」
赤槌の顔がきらきらと輝いた。
輝く…今、何かが脳裏によぎったような。
赤槌は勢い良く返事をすると、また草むらへ消えていった。
さて、自転車の修理をしなくては。
以前は諦めた自転車を引っ張り出してくると、パンク修理キットを取り出して修理を始めた。
『何やってんの?』
「自転車のパンクを直して、町まで早く行けるようにするの」
『石畳の上を自転車で走れるの?』
「ヨーロッパの人たちは走ってるもの」
しかし、念の為に修理キットは持っていこう。
修理を終えると、台所で交換してきた魚をさばく。鱗と内臓を処理して、鯛は冷蔵庫に。メバルは煮付けに。
鯛は明日、河童たちに持っていこう。
そうだ、ご飯に乗せて鯛飯にしてもいいかも知れない。
今まで食べられなかった分、魚料理が頭の中で脹らんでいく。
そう言えば、実家では母が鯖を酢で締めて鯖寿司を作っていた。今日は見かけなかったが、そのうち鯖が手に入れば作ってみたい。
ブブッとポケットから振動が伝わったのを確認すると、メールが一件届いていた。
開いてみると八坂くんだった。
そう言えば、倶利伽羅のことも町のことも伝えていない。市場へ行くことを言わずに後で知る所となれば、気を悪くするかも知れない。
メールだと長文になるので、電話でも…
そこまで考えたが電話をかけるには勇気がなく、なんとか簡潔なメールを送ることにした。
[倶利伽羅ピアスになる。町に行く道整備されました。明日は市場の日]
送信して一分も経たないうちに着信が鳴った。
〔もしもし、メールの件だけど。どういうこと?〕
「すみません、長文になりそうだったので簡潔にまとめてみたんですが」
〔簡潔すぎるでしょ。どこのアニメの予告編かと思った。明日、向こうへ出かけるの?〕
「はい、市場に行く約束しているので」
〔何時から?〕
「八時には出ようかと思っています。あ、自転車で行きますが」
〔俺もついてっていい?〕
「大丈夫、だと思います」
〔ありがとう。それじゃ明日〕
それだけ言うと八坂くんは電話を切った。
突然の電話に驚いたのか、心臓がうるさい。
「明日、楽しみだな」
しっかり準備をしていこうと思う。
今日も一日、ありがとうございました。




