魚は丸焼き
「祖父が、そう言っていたんですか?」
祖父は私にこの国の事を伝えずに亡くなった。
しかし、全てを処分せず隠すだけに留めた。これは一体どういうことだろうか。
『俺はてっきり幸人が結婚できひんで、血筋が途絶えたんやと思ててん。孫が居たんも初耳やし』
「その辺は幸人に口止めされててん。家庭の事情でな」
その事情というのは日記を読めれば分かるだろうか。
『ま、そう言うわけやし対価交換でいえば、俺の店に並ぶ魚を全部買い取れるだけの価値があるんやで』
そう言われてようやく、砂糖の価値を理解した。
「そんなに…ですか」
一体この国の貨幣価値はどうなっているのだろう。
「でしたら、そこの鯛を三匹とメバルを二匹お願いします」
『それやと価値が釣り合わへんで』
「残りは私の勉強代に。良ければ簡単にでも、この国の事を教えていただけませんか?」
寅次は鈴に目線で確認を取ると、了解してくれた。
寅次曰く、この国の貨幣は玉と呼ばれる五円玉に似たものが一般的だ。皆、それを紐に通して持ち歩く。玉の種類は六種類。
高額貨幣は四角い形をしているが、あまり使われる事が無いらしい。こちらは二種類。
この町では貨幣よりも対価交換の方が多いのだとか。
砂糖が高価なものだというのも、さっきの比例で分かったがここでは黒糖が一般的らしい。
黒糖であれば警戒されにくいが、高価なものには変わりないので交換する場合には気を付けなければならない。
ここの町は代々鏡守りを識り、口の堅い者ばかりなので取引しながら学ぶのには適しているとの事だった。
「色々とありがとうございます」
『分からへん事があれば、また聞いてんか』
「明日の市で買いたい物があるので、黒糖持って来ます」
寅次は笑顔が一瞬固まったように見えたが、すぐにもとに戻った。
『ほな、明日は朝からこっちおいでな。案内したろ』
「ウチも行くわ」
何故か初めての市には、猫又二人が付き添ってくれることになった。
「ありがとうございます。それじゃあ、せっかくのお魚が傷むので調理のために帰ります。これだけお魚があると色々と作れそうで嬉しいです」
深々と頭を下げて屋敷に戻ろうとすると、寅次が怪訝な顔をした。
『調理って焼く以外に、なんやあるんかいな』
その言葉に驚く。彼らは焚き火で焼く以外の調理法を知らなかったのだ。
「鈴さんも?」
「うちは囲炉裏で焼く塩魚が一番の好物やから」
「その魚は全部、塩焼きですか?」
更にはどれも丸焼きだった。
全て焼くしか調理法がないなんて、考えただけでも辛いです。
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