金柑の甘露煮
『実は儂の息子もガーデナーなんです』
赤槌は絞り出すように話した。
「息子さんもモグラ商会に?」
『需要がなくて登録はしとりません。だから…いや…しかし』
赤槌にはいろいな葛藤があるように見えた。
「モグラ商会を通さなきゃいけないなら、私から聞きましょうか?尾上さんにガーデナーを紹介することができれば、私にとっても損はありませんから」
『それは一体…』
これだけ庭に精通し真面目に働く人の代わりは園芸書を読んだだけの尾上には務まらないだろう。
庭はカフェの売りの一つとも言っていたから、荒れていくのも本意ではないはずだ。
それならば、条件をつけて赤槌の息子を紹介する方がお互いにとっていい話となるに違いない。
私の意図を理解した赤槌は、なる程と頷く。
『紅実子様は商売人の鑑ですな』
就職は出来ていないけど。
「明日、土門さんと会う約束があるので聞いてみます」
『宜しくお願いします』
赤槌は恭しく頭を下げた。
赤槌と話を終えて居間に入ると、縁側に所狭しと金柑の詰まったカゴが並んでいた。
カムナギから帰る前に河童たちに金柑を採りに行ってほしいと頼んでいたのだ。
「砂糖、足りるかな」
新しくなった台所に立つと、エプロンをつけて気合を入れた。
二階の納戸から大量に溜まっていたジャムの瓶を運び出し、沸騰した鍋で煮沸消毒をする。
金柑は水洗いをして縦に切れ目を入れ、種を取り出したものを鍋に入れていく。
ちらっと横目で金柑を見ると、終わりの見えない作業だった。今夜、寝られるだろうか。
鍋に金柑が半分ほどたまったら、砂糖を振りかけ煮込む。コンロは三つとも活躍している。
しばらく作業を続けていると、本を読み終えた桂兎が台所を覗いた。
『それ、何してんの?』
「金柑を煮てるの。喉にも良いし、甘くて美味しいのよ」
『どうやるの?』
思わぬ人手が得られたので、日が暮れる頃には大量の金柑はすべてジャム瓶に納まっていた。
少し余った分はタッパーに入れて、冷蔵庫で冷やしておく。
ちなみに金柑も生薬に入っていたらしく、頁が書き換わっていた。
桂兎は出来上がったシロップがことの他気に入ったようで、金柑を五個ほど食べていた。
今夜は人数が少ないので、夕飯は冷凍しておいたほっけの干物とご飯と小松菜の胡麻和えにした。
ご飯を二つよそう、小さなお膳は赤槌の分。
縁側に正座して食事をする赤槌を見るたび、早く土小人の座れる椅子とテーブルを揃えないとと思う。
食事も終わり後片付けをしながら、こんな静かな夜は久しぶりだと気がつく。
今夜は早めにお風呂へ入って、久しぶりに茶色の本を書き換えよう。
穏やかな初夏の夜は更けていった。
紅実子、連日大忙しです。
たまには休みの日も入れなければ。




