庭の仕事
「今日はお一人ですか?」
尾上は持ち前の営業スマイルを貼り付けた顔で聞いた。
買い物圏内が重なっているのだろうか、待ち伏せされた可能性は低い。
なぜなら尾上の両手には、山のような買い物袋がぶら下がっているからだ。人を待ち伏せするのに買い物袋は邪魔だろう。
「いえ、二人です」
桂兎のことを何と言えばいいのか迷ったが、無難に答えた。
尾上の見ていた本に視線をやると、意外にも園芸書であった。赤槌が居なくなった後に庭を管理できるものが居ないのだろう。
私の視線に気がついた尾上は気まずそうに本を棚に戻した。
「うちのガーデナーが辞めてしまってから、庭が荒れていてね。店のウリの一つだったからどうにかならないかと調べていたんですよ」
そう言うと尾上は視線を棚に戻した。心なしか少しやつれたようにも見える。
軽く会釈をして尾上とわかれ、桂兎を迎えに行った。桂兎は一冊選んでいたらしく、大事そうに本を抱えている。選んだのはハーブの本だ。
「ハーブに興味があるの?」
『今まで日本の薬草や近国の薬草しか見たことなかったからね。新しい草花を識ることが、薬の未来を作るのさ』
見た目は子どもでも、さすが薬棚の付喪神である。
大きなリュックサックに一升瓶を三本入れて背負い、本を抱えて歩く姿はさながら二宮金次郎だ。
ちなみに残りの一升瓶二本と野菜や肉、砂糖は自分で持った。
帰りは上り坂なので少し疲れたが、以前に比べれば体力がついてきている。
家に着くと、庭の紅かなめの木陰で休んでいた赤槌を見つけた。少し迷ったが尾上のやつれ方が頭に浮かび、一応言っておこうかという気になった。
「赤槌さん、お疲れ様です。お庭が随分きれいになりましたね」
赤槌は麦わら帽子をぱっと手に持つと、立ち上がって会釈した。
『紅実子様、おかえりなさい。そう言っていただけると頑張っている甲斐があります』
「さっき寄った書店でカフェのオーナーに会いましたよ。赤槌さんが居なくなってから、お庭が荒れているみたいで園芸書を読んでいました」
赤槌は少し間を置き、俯いた。
『そうですか。これから梅雨にかけて手入れが難しい時です。あの庭は…もう元には戻らないでしょうね』
赤槌は丹精込めた庭が荒れてゆく様を思い浮かべたのか、苦虫を噛み潰したように笑った。
事の発端となったのは自分だから、ばつが悪い。
「きれいなお庭だったから勿体無いです。どなたか代わりに手入れできる人がモグラ商会に居たら良いんですが」
私の発言に赤槌が目を真ん丸にして、驚いた。
『紅実子様、あいつは紅実子様に偵察を向けるような奴ですよ?』
「そうなんだけど…赤槌さんが丹精込めた庭が荒れてゆくのは、残念で仕方なくて」
『…すみません、顔に出ていましたか。もう割り切っているつもりでしたが、何年も育てているとわが子のようで』
そう言うと赤槌は眉間にしわを寄せて、何かを考え始めた。
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