田植え
『ちょっと、今何時だと思ってるの』
かすむ目で時計を見ると、すでに十時前だった。
「えっ、目覚まし鳴らなかったのか。宅配便が来ちゃう」
慌てて動きやすい格好へ着替えると、階段を降りた。
ポストを確認しに外へ出ると、ちょうど宅配便の車が家の前で停まるところだった。
「おはようございます!ちょっと量が多いので、玄関まで持っていきますね」
宅配便のおじさんは親切に平たい段ボールを玄関へ積み上げていった。
おじさんは顔には出さないがこんなに沢山の稲苗、どこに植えるのか不思議に思っているのでは。
「では、またお願いします」
挨拶をすると、おじさんは車に乗り込んで去っていった。
『そんなに大量の苗を植えるの?』
壁から覗いていた桂兎が問うた。
「うちで食べる分も一緒に育てようと思って。近ごろお米の消費量が多いし、少しでも自給自足しなきゃ」
桂兎を連れて鏡を越えると、屋敷の前に待っていた河童たちに残りの苗を持ってきてもらえるように頼む。
河童たちには一箱五キロはありそうな段ボールを、四つほど抱えて足取り軽く水田まで戻ってきた。
河童といい、土小人といい力持ちだなと感心をする。人間が特別弱いだけだと言われれば、それまでだが。
今日のために水田は童河童たちが細かな石を取り除き雑草を抜いてくれていた。
長いロープを二十本ほど取り出すと、植え方を説明する。
ロープには間隔を空けて赤い色の付いたビニールテープが巻いてある。
「二人一組でロープを持ってください。出来るだけ同じ体格の河童同士がいいです」
河童たちはお互いの背丈を比べながら組んだ。
「次に植える役目の人は、赤いテープの真下に四本ほどまとめて植えます。浮かんでこないようしっかり植えてください」
童河童たちが苗の束を片手に、そおっと苗を植え付けた。
「全部沈めてしまわないように気をつけて」
何匹かはビクッと反応した。慌てて苗を植え直す。
しばらく練習すれば童河童も慣れたもので、田んぼの泥を物ともせずに次々と植えていった。
今回は予算の都合で肥料をあまり撒けなかったのが心残りだ。
皆が張り切って田植えをしている間、リュックサックから例の物を取り出して炊き出しの準備をした。
手の空いた河童たちは野菜を剥くのを手伝ってくれた。何匹かは白ご飯の精米に向かったようだ。
精米機の事を考えると、発電機が外にあったほうが便利だろうか。わざわざ屋敷の二階まで精米に行くのは手間だろう。
『準備できたべ』
鍋に小さく切った野菜と特売で買った鶏胸肉を入れて、腕輪から水を出し大鍋で煮込む。
そうカレーだ。今日は少し奮発して甘口カレーを作った。
『ええ匂いだ』
河童たちがそわそわと鍋の周りに集まってきた。
「ご飯が炊けたら、食べましょう」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。青々とした稲が、水面にそよぐのが好きです。




