屋敷の探索
鏡を越えるのも、もう何度目か。
九太郎と約束していたより一日早いが、下見しておきたいものは色々とあった。
「今度、道の駅が開くフリーマーケットのようなものに出そうかと思っているんです」
屋敷の中を歩く道すがら、三人に話しておく。
「え、私も一緒にお店手伝いたいな。週末?」
「第三日曜日です。十時から十五時までなので、あまり長くはないですが」
「へえ、紅実ちゃんってそういうの苦手そうなのに」
鹿島くんが意外そうに言った。
「苦手ですが、顔見知りのおばちゃんに頼まれてしまったので。尾上さんも誘われていたので、美砂ちゃんは来ると危ないかも知れません」
「他人事じゃないだろ」
八坂くん、真顔で怒るのはやめて欲しい。
「道の駅でばったり会いましたけど、何もありませんでしたよ。二人いると思ってるなら、やっぱり美砂ちゃんを選びますよね」
少し卑屈になってしまった。
八坂くんをちらっと見ると何か葛藤している。下手な慰めなど要らないし、気にしなくても良いのに。
今日は屋敷を出る前に、一階を探索する事にした。
階段を降りるとすぐ脇に奥まった通路がある。
並ぶ扉を二つ開けると突き当りは広いリビングで、もう左手側は何故か和式トイレだった。これも元の世界から持ってきたのだろうか。
そっと扉を閉める。
気を取り直してリビングへ入ると正面には大きな暖炉があり、床はテラコッタの様な石で出来ていた。暖炉の前にはソファーが三脚、コの字に並んでいる。
「構造から見て建てられたのは百年以上前だけど、紅実ちゃんのお祖父さんが所々手を加えたのかもね」
ちゃっかりメモを取りながら鹿島くんが言った。
「ここの窓際にも本棚がたくさんあるね」
美砂ちゃんが窓と窓の隙間に並ぶ本棚を指差す。
「それにしても、埃と蜘蛛の巣がひどい。使えそうなトイレとお風呂もないので長居は出来ないですよね」
せめて窓でも開けたいところだが、窓枠を動かせば埃が舞い上がりそうだった。
「この世界には電気がないみたいだから、トイレは多分汲み取り式だろう」
祖父の代には、この屋敷でトイレを使うことはなかったのだろうか。
「場所的には、水力発電か太陽光発電で電気を作れない事もないと思うけど」
「問題は配電よね」
一通りの探索を終えて屋敷を出た私達は、昼食を済ますと散歩がてら棚田へ向かった。
途中、空っぽの鶏小屋を横目で見る。
早く鶏を飼いたい。
水田に着くと、童河童と大人の河童がせっせと水田の整備を進めていた。
『あんれ、紅実子様いらっしゃるのは明日だったでねえか』
「用事が早く終わったから、下見に来たの。稲の苗は明日持ってくるわ」
改めて水田の畦道を見ると、そこまで手が回らないのか雑草だらけだった。
「雑草、どうにかしないと歩きにくいな」
『山羊でも買えれば楽だべな』
「山羊がいるんですか?」
『町の市場で売ってるべ。高くて手も出ねが』
こちらの世界にも山羊がいるのか。
夜にもう一話更新します。




