花とおじさん
「“門”って何ですか?」
頭の回転が追いつかない。まだきっと頭は寝ているのだ。
『以前、儂らが専用の道を通るとお話しましたね』
「はい、確か」
『その道を通るために必要なのが、このリングです』
土門は足を指差す。
よく見れば地下足袋に真鍮製の華奢なアンクレットをつけている。花の意匠が施してあった。
種族が違うおじさんの細かいファッションチェックなどしていなかったが、そんな意味があったのか。
『これをつけていれば、儂らの村へ足を踏み入れることが出来ますよ』
土小人の村、ちょっとメルヘンな想像が頭をよぎる。
『昔はそれなりに栄えましたが、今じゃ荒れ果てているのであまりお勧めできませんがね』
「なぜ荒れ果てたんですか?皆とても働き者なのに」
常々感じていた疑問がこぼれてしまった。首を突っ込み過ぎただろうか。
『話せば長いですよ』
「要約をお願いします」
『まあ、そうですね。一言で言えば衰退です』
要約し過ぎだ。
『儂らは土と共に生きる種族、カムナギから住処を移すことはありません。他所へ行けば、他の縄張りとぶつかる事もありますから。その縄張りの中にあった、唯一の町が衰退していったので取引相手が減ってしまったんですよ。苦渋の選択でこちらの世界へ出稼ぎする者も居ましたが、人に見つからずに生活するのは困難を極めまして』
「赤槌さんも、その一人でしたよね」
事情は分かった。向こうの衰退した町とは、河童が言っていた町のことだろうか。
やはり一度、二時間歩いたとしても見に行かなければ。
『いい機会ですし、他にも恩恵がありますからお作りしましょう』
そう言うと土門は懐からメモ帳を取り出して、何やら書き留めた。
『出来上がり次第、お届けに参ります』
「ありがとうございます。楽しみにしています」
輪っかを受け取ったら、土小人の村にも訪ねてみたいと思った。
「紅実ちゃん、どこ?」
美砂ちゃんが裏口からひょっこり覗いた。
「あ、なかなか戻らなくてごめんね」
「それは良いんだけど…もう終わりそうだし」
一瞬耳を疑った。
台所に戻ると、裏口の土間が消えて一面の無垢材フローリングに変わっている。
「土間がない」
裏口を開けるといつもより、一段高いフローリングが顔を出した。
「昨日言い忘れてたんだけど、永島先生が増築の許可もらってきたんだ。ここを繋げるつもりにしてるから、今は少し使いにくいけど我慢して」
どうやら希望していた室内のお風呂が、実現するようだった。
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