季節はずれのお雑煮
台所に戻ると、すでに作業は始まっていた。
水道とガスの元栓は止められ、床を覆っていたコルクマットは手際よく剥がされていく。
そりゃ土小人が五人も居るのだから、進みも早いだろう。ふと思い至って、足元で図面を見ていた土門に確認をした。
「あの、土門さん。昨日の夜、対価は確認しましたよね。本当に五人も大丈夫ですか?お酒は一升瓶一本だし、あとは最中だけですよ」
『昼ごはん出るんですよね?それと対価を合わせれば大丈夫ですよ。本部に居たってご飯は食べられませんし、志願してきました』
そこまでお昼ご飯に夢を見られたら、あまり質素なものは出せなくなる。
その前に朝ごはんも食べていなかったことに気がついた。
昨日の残りご飯でおにぎりを作ると八個しか出来ず、これでは足りない。どうしようかと思っていたら、冷凍庫に眠っているお餅を思い出した。
お雑煮風にしよう。
端っこに避けられた冷蔵庫から鶏肉を取り出して、水の入った大鍋に入れて昆布と一緒に煮る。
ガスが使えないので、ちゃぶ台の上に置いたカセットコンロ一つだ。
沸騰したら昆布を取り出し、出汁パックと野菜を加えて中火にした。
「おはよう、あ〜いい匂いがするぅ」
目をこすりながら美砂ちゃんが起きてきた。
「もうすぐ朝ごはんだからね」
鶏肉を取り出し小さく切って戻したら、トースターでお餅を焼く。
「おはよう、元気なおじさんが沢山働いてる〜」
鹿島くんも起きてきた。
冷凍してあった柚子の皮を細く切って、畑の三つ葉と一緒に散らした。
「皆さん、お餅を何個食べますか?」
「俺、三個」
「私二つでいいや」
「僕も二つで」
『儂も食べていいんですか』
庭の方から声がして見れば、赤槌が縁側から覗き込んでいた。
台所の方からも土小人たちが覗き込んでいる。
「沢山ありますから、どうぞ」
トースターで次々とお餅を焼くと、土小人たちは美味しそうにお雑煮を味わっていた。
「朝はまだ寒いから温まるよね」
美砂ちゃんが外を眺めながら、ゆっくりと食べている。
『嫁にも食わせてやりてえな』
『餅なんて滅多に食べないもんな』
新しく来た二人の土小人は、お椀の汁を飲み干すとしみじみと言った。
『さっ、食べたんなら持ち場に戻れよ。しっかり働こう』
土門が活を入れると土小人たちは一目散に持ち場へ帰っていく。
皆の食事が済んだので洗い物を持って井戸へ向かうと、裏口で土門を見つけた。
「土門さん、今日は急なお願いにも関わらずご快諾ありがとうございました」
『いや、仕事が増えるのは有り難いことですよ』
「そうだ、お聞きしたい事があったんです」
昨夜見つけた指輪マークについて、聞きそびれていたことを思い出した。
「本に指輪のマークが増えていたんですが、何に使うか分かりますか?」
土門は眉間にシワを寄せて、眺めるとひと呼吸おいて本を閉じた。
『これは驚いた。紅実子様はこの本“産土”を半分、書き換えられたのですね』
言われてみれば、時間を見つけては少しずつ野菜を書き換えていた。桂兎がヒエログリフを解読してくれるようになってからは、効率も良くなっている。
『そう、これは指輪ではなく“門”です』
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