早起きは幾らかの徳
翌朝、山の木々から鳥の声が聞こえ始めた頃モグラ商会の人々が戸を叩いた。
時計を見ればやはり五時過ぎだ。
周りを見れば、まだ皆夢の中にいる。
眠い目をこすりながら、階段を降りると裏口のドアを開けた。
『おはようございます!モグラ商会です』
挨拶の声が何重にも重なる。顔ぶれを見れば前回、鶏小屋を立ててくれた三人と初めて見る人が二人いた。
『この三人は前回ご挨拶したと思います。あっちの二人は初めてですね。おい、こっち来て挨拶だ』
『荒木です』
『鹿沼です』
新しく来た二人は、モグラ商会の中でも若いのか赤槌と同じく三十代後半に見える。しかし体格はとてもしっかりしていた。
二人は頭を下げると、家の中を物珍しそうに見渡して土門に叱られている。
人間の住む家など、普段目にする機会がないのだろう。
『不調法ですみません。しかし、腕はいい奴らなんです。早速ですが、今日の現場にご案内願えますか?』
土門に促され、図面を片手に台所を歩き説明した。
素人の私が見ても全く分からないが、土小人の彼らには図面というものは宝のような物らしい。
『これが、花礫さんの言ってた奇跡の紙ですね』
『新しく描かれた図面なんて、ここ二百年ほど見てねえからな』
細かいところは彼らに図面を見てもらうことにして、別の紙に書かれた使う材料をチェックする。
「…おはよ」
無造作ヘアの八坂くんが起きてきた。
「おはようございます。皆さんさっき来られたところで、今は図面を確認してもらっています」
「…ん」
まだ半分ほど覚醒しきらない八坂くんは、顔を洗って眠気を振り払うと土小人の輪に入って段取りを確認し始める。
『八坂の旦那、おはようございます!今日の図面は斬新ですな』
「キッチンは日々進化している。今の面影を残しながら、動線を使いやすく作りたい」
今日は台所を改築するので、お茶や米を炊く水は井戸から汲み上げて来なければならない。今のうちに支度をしておこうと、裏口を出る。
すると、井戸の横に緑色の影を見つけた。
『あっ、おはようございますだ。そろそろ向こうへ帰るところだったべ』
どうやら畑仕事を終えた河童が、井戸水で汗を流しているところだった。
「毎朝ご苦労です。向こうの様子はどうですか?明日あたり、稲の植え付けに行かなきゃと思っていたんですが」
『紅実子様の下すった苗がスクスクと育っとりますだ。トマトちゅうのに、花が咲いとるので収穫が楽しみだす』
もう花が咲いたのか。一度、他の植物も様子を見なければ。
「米は上手に炊けていますか?みんなの分を炊こうと思うと一度に炊けないから大変でしょう」
『女衆がうまい飯を炊いてくれとるべ。野菜さ採れて少し蓄えが出来たら、町で鍋と換えてもええかと話しも出とりますで』
「近くに町があるんですか?」
『近くはねえべさ。オラたち歩いて一時かかるべ。あ、日が昇ってきただな』
「明日またお話聞かせてくださいね。ではまた明日、気をつけて」
河童たちは何度も鏡を往復しているうちに、私の手助けなしに出入りのできる者が現れた。
慣れなのか、素質なのか不明だが鈴さんには内緒にしておくように言われたのだ。
「そうだ、お米研いで戻らないと」
手に抱えたボウルを見て、目的を思い出した。
メンテナンスお疲れ様でした。
本日中にもう一話、更新目指しています。




