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動揺

昼食を終えると、永島先生は大叔母を送って帰っていった。


午前中に腰壁を張り終えて、午後からは珪藻土を塗る組と無垢材を張る二組にわかれる。


しかし私の頭の中には、先ほどの八坂くんの発言が引っかかり小さなミスを連発していた。


あの人は天然のタラシだ。きっと意味はない。

そう自分に言い聞かせても、なかなか動悸は収まらない。


しまいにはドライバーであらぬ所にネジを打ちつけそうになったので、美砂ちゃんから珪藻土係へチェンジを申し付けられた。

鹿島くんが嬉々として私と交代する。


珪藻土を壁に塗る作業は、初めこそ楽しいが段々と腕の疲労が蓄積してきて辛い。


コテと呼ばれる道具に珪藻土を乗せて、壁に擦りつけ均す作業が延々と続く。

機械で練り上げた珪藻土は、コテに乗せれば一キロほどはあった。


「大丈夫?」

「大丈夫です!無心になれます」

八坂くんの問いかけに、素っ頓狂な返事をしてしまった。


床張りも一見簡単そうに見えるが、とても技術のいる作業で時間がかかる。

それぞれの作業が終わる頃には、すっかり日も傾いている。


「お疲れ様でした。トイレはこれで完了です」

皆、珪藻土をあちこちに着けてフラフラとしながらすっかり生まれ変わったトイレの前に立つ。


「床は無垢材だからね、分かってはいると思うけど…男子二人は気を付けるように」

美砂ちゃんがチラリと横目で牽制をかける。


「分かってるよ、そんなこと言わなくても!」

珍しく鹿島くんが赤くなった。

「いつも座ってるから問題ない」

八坂くんは淡々と答える。


私はとりあえず聞こえないフリをして、夕飯の支度に取り掛かった。

「たまにはスパゲティとか、いかがでしょう?」


異議を唱えるものも居なかったので、道の駅で安く買えた春キャベツのペペロンチーノを作ることにした。


唐辛子を小口切りにして、ニンニクと油で炒めていると背後からゴトッと音がした。

「ん?」


料理の手を止めて音のする方を見ると、桂兎が本を抱えて立っている。


「どうしたの?」

『変わっちゃった』

何もしていないのに本が書き変わるはずがない。

手を拭いて本を受け取ると頁を捲った。


【トウガラシ(蕃椒)】


確かに唐辛子を料理に入れている。それだけで変わるのだろうか。疑問に思っていると、桂兎が言った。

『漢方には家庭で使うような薬草が多いんだよ』

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブクマと評価を見て、励まされています。

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