相互関係
孵卵器の中が適温になったのを確かめると、届いた鶏の有精卵を一つずつ設置していく。
鶏の種類は迷ったが名古屋コーチンにした。
向こうで上手く育てられたら、こちらでも小さな鶏小屋を作って飼おうか。
育て方を色々と調べたが、孵卵器の蓋を開け過ぎなければ定期的な検卵以外にすることは少なかった。
『これで、いつ孵るの?』
「問題なければ二十一日後には雛が孵るよ」
『へえ、この機械どんな仕組みになってるんだろう。開けちゃ駄目?』
「この機械は自動で転卵をしてくれるから、次に開けるのは六日後くらい」
『なんの為に開けるの?』
「検卵といって卵の中で雛が、きちんと育っているか調べるの」
『僕がやりたい』
近所の子どもと話をしている気がしてきた。
「分かった。やり方を教えてあげるから、薬棚くんは代わりに本に書いてある薬の作り方を教えてくれる?」
『それじゃ、僕が読めなくなるじゃないか』
「じゃあ代わりに人の文字も教えてあげる。そうすると、もっと沢山の本が読めるようになるよ」
薬棚は口を引き結ぶと、顔をそらした。
『約束だからね。絶対だよ』
「うん、ちゃんと教えるよ。こちらも宜しくね」
話が通じて良かった。
『桂兎、僕の名前。薬棚は名前じゃないからね』
「お名前教えてくれて、ありがとう。私の名前は紅実子です」
知ってるよ、と小声で呟くと桂兎は元の場所で薬棚に戻った。
しかし骨董市で買った薬棚が話すなんて、不思議なこともあるものだ。そういえば、八坂くんが何かを言いかけると急に安くなったような…八坂くんは何か、気が付いていたのだろうか。
聞くにしても明日、会った時に聞こう。
ここのところ鏡の向こうへ行ったり狐の襲来があったりして、ほぼ毎日八坂くんと会っていた。
大学四年ならそろそろ忙しい時期だろうから、本当は家のことも自分でしなければならないのだ。
他人に就活の話を聞くのも憚られて、その話題には触れずに来た。
でもたった一ヶ月ほどなのに、遠くに就職してしまうと寂しく思うようになっている。
「会えなくなると、寂しいな」
会えなくなると思うことで心の奥がちくりと痛むことに、まだ気付く由もなかった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




